頭巾裸

妄想小説

尼僧院物語



 二十八

 (マリアが戻って来るのがやけに遅いわね。朝食を食べるのを拒んでいるのかしら・・・。)
 やきもきしながら待っていた僧院長は、自ら様子を見に行くことにした。出来る限り他の修道女に顛末を知られてはならないからだ。
 教誨室への螺旋階段を降りていくと、鉄格子の扉が開けたままになっている。更にはその先の閂の掛かる木の扉も閂が外されたままで開いている。僧院長が中に駆け込むと後ろ手に縛られたマリアが猿轡を嵌められて床に転がっている。マリアの足首には男に嵌めた筈の足枷が嵌められていた。
 慌てて駆け寄って猿轡を外してやる。
 「ぷはあっ・・・。そ、僧院長様っ。申し訳ありません。」
 「どういう事? いったいこれは・・・。」
 「お言いつけどおり食事が終わったか、確認に戻ったのですが、男の方の姿が見えません。慌てて中に飛びこむと壁の陰に隠れていたあの方に捕まってしまったのです。何とか逃げようともがいたのですが、男の方の力が強くてどうにも出来ず、縛られて鍵束も奪われてしまいました。」
 「こんな縄、どこから持ってきたのだろう。」
 「わたしを裸にして胸に巻いていた縄を解いて、それを使って縛ったのです。」
 「何と言う事・・・。」
 僧院長はマリアが口から吐き出したものを抓み上げる。
 「これは・・・、あなたの下着ね。」
 「はい、僧院長様。無理やり脱がされ口の中に突っ込まれたのです。」
 「何て酷いことを・・・。ずっとこうして縛られていたのね。かわいそうに。そうだ。あの男の脚ではまだそう遠くへはいけない筈だわ。すぐに追っ手を差し向けましょう。あなたには別の誰かを寄こします。鍵束はどこかに落ちているでしょうから、見つけたらその足枷も外してあげます。それまでそのままもう少し我慢して待っているのですよ。」
 僧院長はマリアの戒めを解くよりも追っ手を差し向けるのが先だと判断して、マリアをそのままにして修道院の方へ人を呼びに戻ったのだった。

 マリアが咄嗟に考えたアイデアは功を奏したようだった。
 (自分が男に捕まって鍵を奪われ、逆に縛られて放置されたのだというのは全く疑われなかった。もし自分が逃がしたと疑われれば、沢沿いの道ではなく隠し扉から地下道を通って上の道へ逃がしたとばれてしまっていただろう・・・。)
 マリアが逃げ道として教えた秘密の通路は僧院長とマリアしか知らない筈なのだった。以前、僧院長が他の修道女の誰にも知られずにアレクセイ神父に手紙を届ける密使を言い付かった際にこっそり教えられた道だった。アレクセイ神父に手紙を渡すのに、他の修道女に見つかってはならないというのは、何かいけないものを感じた。僧院長から絶対に中を見てはならないと厳しく言い付かったので、その言い付けを破ることはなかったが、いけないものなのだとは察しがついたのだった。

tbc
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