地下牢

妄想小説

尼僧院物語



 二十六

 一旦修道院本館の外に出ると壁伝いに教誨室になっている地下へ降りて行く入口から中に入る。階段は薄暗いが明り取りと蝋燭が幾つかあるので真っ暗ではない。転ばぬように注意しながら階段を降りると最初に鉄格子の扉がある。腰の鍵束を外して鉄格子の扉を開くと更に奥に閂が掛かった木製の扉から閂を外してそおっと中を窺う。
 「誰っ? マリアなのか?」
 「しっ。大きな声を出してはいけないわ。」
 マリアは奥の壁際に涼馬が居ることに気づいた。想像した通り、足首に足枷を嵌められて逃げられないように鎖で壁に繋がれている。
 「僧院長様に食事を持ってくるように言われたの。でも、これを食べてはいけないわ。きっと眠り薬が入っているから。」
 「どうしてそんな事を教えてくれるんだい?」
 「貴方を助ける為よ。でも、その為にはいろいろしなくちゃならない事があるの。貴方を逃したことがばれたら、私も終りよ。だから、いい? 私の言う事を聞くって約束してくれる?」
 「勿論だとも。」
 「じゃあ、まずその足枷を外してあげる。前にそれを外したことがあるので、どの鍵かは知っているの。ああ、これだわ。」
 特徴のあるマークの入った鍵を鍵束の中から見つけると、繋がれている涼馬の足下に屈んで足枷を外す。
 「時間がないわ。足が痛いでしょうけれど、この杖を使って私の後を出来るだけ急いでついて来て頂戴。」
 「わかった。行こう。」
 マリアと涼馬は急いで階段をあがる。
 「門の方ではなくて、こっちよ。あなたがやって来た正門から続く道は沢沿いの一本道だからすぐに見つかってしまうわ。私について来て。」
 マリアは修道院の廊下に誰も居ないことを確認すると礼拝堂のほうへ涼馬を案内する。起き上がった状態で礼拝堂に入るのは初めてだった。
 (へえ、こんな風になっていたのか・・・。)
 建物の造りを感心して観ながら歩いている涼馬の服を引っ張るようにしてマリアは礼拝堂の端を進んで中央の祭壇の脇にある小さな扉へ向かう。扉を開くとそこは鐘楼へ昇る螺旋階段になっている。
 「そっちじゃなくて、逆よ。」

螺旋階段

 マリアが上へあがっていく階段とは反対側の壁に据えられている讃美歌集などが入れてある本棚を手前に引くと、本棚ごとギィーッと音を立てて開いてくる。
 「へえ、隠し扉になっているんだ。」
 「早く中に入って。」
 涼馬を扉の中に引っ張り込むと、そちら側は逆に下へ降りて行く螺旋階段になっている。
 「いい、よく聞いて。この階段を降りて行くと平坦な狭い地下道に出ます。そこを真っ直ぐに奥へ向かっていくの。すると今度は昇り階段があるのでそれを昇っていってちょうだい。一番上まで上がると扉があって、そこから外に出ることが出来ます。そこはマリア像が飾ってある祠のようになっているの。そのすぐ前に通っている道があなたが崖から落ちる前に歩いていた道です。下っていくほうにどんどん歩いて行くと町の方へでます。途中、あなたが落ちた崖を通るので、その場所から靴を片方下に向かって放り投げて。あなたが下の道を通ったことを装う為よ。ここまで、いい?」
 「ああ、判ったよ。でも、マリア。それより一緒に逃げよう。」
 「駄目よ。わたしにはここしか居場所がないの。あなたはここに居たらきっと殺されます。だからすぐに急いで逃げて。」
 そう言うと、マリアは長い裾をたくし上げて僧服を脱ぎ始める。
 「おい、一体どうするつもりだ。」

tbc
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