修道女1

妄想小説

尼僧院物語



 三十六

 マリアは一刻も早く、地下の教誨室へ向いたかったのだが、その前に僧院長室へ寄ってみることにする。そして思いも掛けず、縄で括られ猿轡を咬まされている僧院長たちを発見したのだった。
 「僧院長様。今、縄を解いて差し上げます。まずはその口の猿轡を・・・。」 
 マリアが僧院長の猿轡を外すと、息絶え絶えに僧院長がマリアに諭す。
 「マリアよ。私の戒めを解いたらすぐにこの修道院を後にするのです。この修道院はもう終わりです。決して後ろを振り向いてはなりません。まっすぐ外に向かって歩いていくのですよ。」
 僧院長だけまずは後ろ手の戒めを解くと、あとは自分がという僧院長に任せてマリアは教誨室へ急いだのだった。

 マリアが教誨室への螺旋階段を走って降りていくと、木の重い扉が閉ざされていて閂が掛けられていた。急いで閂を外して扉を開ける。
 「涼馬さん。そこに居るの?」
 「ああ、マリアさん。助けに来てくれたんだね。」
 「ええ、もう一人の方が涼馬さんがここに居ると教えてくれたので。あの方も助けにいかないと。」
 「いや、いいんだ。マリアさん。僕をここに閉じ込めておいて、マリアさんを犯しに行くなんてもう許せない。マリアさん、あいつに犯されたんじゃないだろうね。」
 「いいえ、寸でのところでシスター・ナタリーに助けて貰いました。でも、そのせいであの方はナタリーさんたちに・・・。」
 「いいんだ、あいつのことは。自業自得ってやつさ。」
 「涼馬さん。私を一緒に連れてここを出てくださる? 僧院長様からすぐにこの修道院を出るようにと命じられて。」
 「そうなのか。じゃあ、すぐ行こう。あの例の抜け道を使おう。」
 「礼拝堂からは行けないわ。シスター・ナタリーたちがまだ居る筈。別の通路から行きましょう。鐘楼へ出るもうひとつの道があるの。そこから地下道へ礼拝堂を通らずに行けるの。私が案内するわ。」
 マリアは鐘楼への階段に通じるもうひとつの入り口を一旦外に出て壁沿いに涼馬を導いていく。前回、涼馬を逃した際には足を引き摺る涼馬はマリアに追いついていくのがやっとだったが、今はマリアを追い抜く勢いなのだった。
 「こっちよ。」
 ひと際高い尖塔の真下に辿り着いた二人は小さな木戸を開ける。そこには今は懐かしい隠し扉になっている書棚があった。

tbc
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