妄想小説
尼僧院物語
四
涼馬が再び目覚めると、ゆうべ寝かされて食事を採らせて貰ったベッドに横になっていた。朝立ちで激しく勃起しているのが判る。シーツの下は下半身だけ裸らしかった。
手首を動かすと自由に動く。
(あれは夢だったのだろうか・・・。)
どう考えてみても、現実の出来事であったとは思えないのだった。
(しかし、あんな礼拝堂は今までに見た記憶がない・・・筈だ。)
その時物音がして、ベッドの上から音のするほうへ向きなおってみると、自分を救ってくれた修道女が盆を手に部屋に入ってくるところだった。
「ああ、あなたは・・・。」
(ゆうべ縛られて折檻を受けていたのですよね)と言いそうになって言葉を呑みこんだ。
「起きておられたのですね。お食事をお持ちしました。」
「あ、あの・・・。私・・・、下に何も穿いていないみたいなんですが。」
涼馬を見つめていた修道女が突然いけないものでも見たかのように視線を逸らした。
「ひどく血で汚れていて、僧院長さまに相談したら傷の具合を見るから持ってくるようにと言われて。それで、私がお脱がせいたしました。昨夜のうちに洗って干しておきました。もう乾いていると思うので、後でお持ちしますわ。」
「あなたが・・・? それじゃ、僕の裸を見たんですね。」
修道女がポッと頬を赤らめるのに涼馬は気づいた。
「いえ、見ないようにしてお脱がせしましたから。」
そういう修道女の言葉は涼馬には信じられなかった。が、それ以上追及するのはやめておくことにした。
「僕、竹野内涼馬と言います。明学院大学の今度の春から三年生になるものです。」
「ああ、学生さんだったのですね。あ、わたしはマリアといいます。勿論、本名ではありませんが、修道院内では自分の守護聖人の名前で呼び合うしきたりになっているのです。」
「マリア・・・さんですか。私もマリアさんとお呼びしてよろしいのですか。」
「はい、そうお願いします。」
「あの、マリアさん。僧院長も私の身体を見たのでしょうか。」
「いえ、僧院長・・・、ああ、僧院長はオリガ様と仰るのですが。僧院長に傷の事を話しますと、血で汚れた着衣だけ持ってきなさいと仰せられたので、私が脱がせてお持ちしたのです。暫くするとまた僧院長に呼ばれまして、足の怪我した部分を消毒して包帯を巻いておくようにと言われましたので、私がお世話させて頂きました。お召し物も血で汚れておりましたので朝までに洗って干しておくように言い付かりました。」
涼馬は目の前の若い修道女が股間を剥き出しにした自分の下半身を目を背けながら包帯を巻いたとは到底信じられなかった。その様を想像しているとまた勃起してきそうになる。
「この僧院は完全な男子禁制の場所なのです。でも、貴方様はお怪我をされて緊急だったため、僧院長から私が全て面倒を見るようにと命じられたのです。私は本物の修道女ではなくて、まだ未請願の見習い修道女なので、私がすべて面倒をみるようにとお命じになったのだと思います。」
「男子禁制の場所なのですね・・・。」
「左様です。ですから、お怪我の具合がよくなるまではこの部屋の中だけで留まって、修道院内をお歩きにならないようになさってくださいませ。ここは修道院の本館とは渡り廊下で繋がってはおりますが、下男用の離れとなっております。この部屋へは私以外は参りませんので貴方様も、この部屋の外へは出ないようにお願い致します。」
「ああ・・・、そういう事ならわかりました。」
そう答えたものの、修道院内部をどうしても見てみたい気持ちが次第に湧き上がって強くなってくるのを抑えきれない自分に気づいていた。特に、夢でみた礼拝堂がこの修道院内部にあるのかどうかは確かめておきたかったのだ。
「この修道院へはどうやって辿り着いたのかあまり憶えていないんです。滑落した時は確か沢のような水が流れている畔でした。」
「滑落されて沢へ堕ちたと・・・?」
「ええ、そうです。堕ちた際に足を挫いたようです。それで杖になりそうな枝を一本拾って沢に沿って少し這う様に歩いていたところ山道に出たのですが、それはどうも私が堕ちた元の道とは違う道だったようです。」
「ああ、それならばあの崖の辺りですわ。崖の上の道と下の道は沢のかなり下流まで降りてゆかないと合流しないのです。崖の近くで二つの道はかなり接近するのですが、その先ずっと交わってはきません。沢に近いほうの道は修道院へ向かう専用の道路なのでずっと一本道なのです。」
「そうだったのですか。実は僕はこの春から大学で所属しているワンダーフォーゲル部の部長を任されることになってまして、今回は新年度早々に新入部員を連れておこなう最初の訓練登坂に使う候補地を探して独りで歩いていたんです。この辺りは今までもあまり歩いたことがなかったので、下見をしておこうと思ったんです。崖のところで珍しい高山植物らしき花を見つけてあとちょっとて手が届くところで崖が崩れて滑落してしまったようです。」
「まあ、そうだったのですか。あの崖はかなり高低差があるので、よく御無事でした。」
「無事っていう訳にはいかなかったですけどね。ワンゲル部の部長がこんなじゃ、リーダーは務まるかどうか。ははは・・・。」
「お命だけでもご無事ならよかったと言ってよろしいんじゃないでしょうか。神のご加護があったのですわ、きっと。」
「マリアさん。あなたはここは長いんですか?」
「私はずっと孤児院に居たんです。親も兄弟もいない生涯孤独の身で、孤児院を慰問にいらした僧院長様が引き取ってくださったのです。もうかれこれ三年ほどになります。」
「ああ、そうでしたか。それで修道女になる修行中という訳なのですね。」
「ええ、そんなところです。あ、そろそろお着替えを持ってきますわ。それまでこれを召し上がっていてください。」
そう言い置くと、朝食の盆をベッドの傍らにおいてマリアは部屋を出ていったのだった。マリアが居なくなると、ベッドシーツをそっと剥してみる。足首を捻挫した他に大腿部から脛あたりに掛けてかなり深い傷を負ったようだった。ぐるぐる巻きにしてある包帯に少し血が滲んでいる。
(下着にまで血が滲んでいたのだろうか?)
疵の位置からいって下穿きまで外す必要があったのかと首を傾げる涼馬だった。ちょっと見たところ腰のあたりに傷はなさそうだった。
出て行ったマリアはすぐに戻ってきた。離れのすぐ傍に洗濯物を干していたのだろう。マリアが入ってくる音に涼馬は慌てて下半身にシーツを巻きつける。
「お召し物をお持ちしましたわ。はい、どうぞ。」
マリアが差し出したのは見覚えのある登山用ズボンを丁寧に折り畳んだものだった。下着のトランクスはズボンの中に見えないように畳み込んであるらしかった。
「じゃ、すぐ着替えるから向こうをむいていてくれないか。」
「着替えるんでしたらお部屋を出てゆきますわ。どうぞ、ごゆっくり。」
そう言うとマリアは踵を返して部屋をさっさと出て行く。涼馬は着替えるから部屋を出ていて呉れないかと言うつもりだったのをわざと部屋の中に居てもいいと言ってマリアを試してみたのだった。若い女が背を向けているところで下着を穿くというのは涼馬にも刺激的だったが、マリアにそれを想像させたかったのだ。
マリアが部屋を出ていってから受け取ったズボンとその中に隠しこんであったトランクスを念入りに調べてみる。よほど丁寧に洗ったと見えて、血糊の痕は殆ど残っていない。トランクスも入念に調べてみたが血がついていた様子はなかった。
(まさか・・・。)
マリアは僧院長がズボンと下着を持ってくるように命じたと言っていた。最初から血糊が付いていたかは関係なくズボンと一緒に下着も剥して持ってくるように言い含めたのではないだろうか、そんなことを疑ってみる涼馬だった。
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