修道女三人

妄想小説

女子修道院の隠された秘密



 九

 「着きましたわ、ナタリー修道長様。あの柵の向こうがアレクセイ修道院新館。そして柵のこちら側が我々が今晩お世話になる旧館のほうです。」
「そう、ルチア。向こうの修道士たちとは話がついているのね。」
「はい、ナタリー様。新館と旧館の間は行き来が出来ないよう見掛け上はなっていますが、地下の秘密の通路で繋がっています。その通路にも鍵が掛かる扉がありますが、今夜深夜11時の鐘が鳴った後、5分間だけ通れるように私が鍵を開けることになっています。」
 「今夜、やって来る三人の中に若いヤコブはちゃんとまぜてあるのね。」
 「はい、抜かりありません。話を取り持って貰っているピエトロの方から、ヤコブには修行の為に参加させるのだと言い含めてあるそうです。」
 「そう。それで鍵の準備は?」
 「大丈夫です。例の二重底になった袋は既に用意済みです。片側にはナタリー様がお使いになる3番の部屋の鍵がみっつ。もう片側には残りの1番と2番の鍵が二つ。最初に私が若いヤコブに袋の中を探らせてどれを取っても3番になるように番号札のついた鍵を引かせます。その後、袋を持ち換えて1番と2番を残りの二名に引かせます。全てはご指示通りに準備万端に整っております。」
 「よろしい。ならば女子修道院に割り当てられた旧館のほうへ参りましょう。ルチア、ヘレナ。付いて来なさい。」
 「はい。分かりました、ナタリー様。」
 こうして今夜、黙想会を開くことになっている三人の修道女は一時的に男子禁制の場所となったアレクセイ修道院の旧館のほうへ向かったのだった。

男子修道院

 ガーン。ガーン。ガーン。
 アレクセイ修道院の消灯時間である夜11時を告げる鈍い鐘の音が響き渡る。すると音もなく薄暗い修道院新館の礼拝堂に三つの影が現れた。修道士のジョルジオ、イワン、そしてまだ若い修道士見習いのヤコブだった。

修道士三人

 一番若いヤコブは孤児院からこの修道院に連れて来られたばかりだった。ヤコブは本当は岩野清という日本人だったが、決まり事で修道院内では守護聖人の洗礼名であるヤコブとしか呼ばれないことになっていた。日本人ではあるが、白ロシア系の父親と日本人の母親のハーフで、目の醒めるような金髪に青い眼はロシア人にしか見えないまだあどけなさの残る十三歳という若さなのだった。
 先輩の指導者であるジョルジュから、その夜のことは大事な修行の為の勉強の機会なのだとしか知らされていなかった。ジョルジュが目配せで合図すると、イワンとヤコブの二人はジョルジュが向かう秘密の地下通路への扉の中へ後を付いて付き従うのだった。

マリア

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