修道女マリア

妄想小説

女子修道院の隠された秘密



 二

 回廊を全速力で走り抜けて礼拝堂に滑り込んだおかげで、マリアは何とか朝のお務めには最後にならずに席に着くことが出来た。息が切れそうになっているのをなんとか頭に被った頭巾のベールで覆って隠すのだった。

 マリアはここ白ロシア正教会エカテリーナ派に所属するロザリンド女子修道院の二年目になったばかりの見習い修道女なのだった。青年時代に負った恋の痛手から立ち直れないでいたところを、卒業したミッションスクールの指導教官だったシスターに薦められてロザリンド修道院の門を叩いたのだった。マリアは守護聖人の洗礼名で、本名は姫川鞠子なのだが修道院では日本人であっても皆、洗礼名で呼び合う習わしなのだった。マリアは鞠子という名の音から採った洗礼名だった。そのマリアを、朝の務めを終えて食堂へ向かおうとする背後から呼び止める声がした。

留守番命令

 「あ、ナタリー修道長様。何でございましょうか?」
 「ああ、マリア。わたしたちはこれから山向うにあるアレクセイ修道院の旧棟を借りて行われる黙想の会に出掛けるの。黙想の会は宿泊になるので戻って来るのは明日の夜になるわ。お前にはその間、このロザリンド修道院で留守番をして貰うつもりよ。」
 「わ、わたしは・・・、その黙想の会には出席しなくてもよいのでしょうか?」
 「ふん。見習い中のお前には黙想の会などはまだまだ不相応なものよ。もっと修行を積んでからでないと資格などありませぬ。」
 「あ、でも。今日は巡回のイワノフ神父が来られる日ではありませんか。」
 「いいのよ。あの老神父ならお前がひとりでお相手するがいいわ。」
 「わ、わたくし、独りで・・・ですか?」
 「あの老いぼれ爺さんなら、お前独りで充分だよ。私達にはもっと大事なお務めがあちらの修道院であるのよ。さ、皆。食事を終えたらすぐに出発だから、ちゃんと用意をしておくのよ。」
 ナタリー修道長はマリア以外の修道女たちにそう告げるとマリアを置いてさっさと立ち去ってしまうのだった。

マリア

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