ナタリー修道長

妄想小説

女子修道院の隠された秘密



 二十八

 「では、あのヤコブをロザリンド修道院で引き取ってもいいと仰るのですね、ナタリー修道長。」
 「そうです。あの子は修道士としての資質があるようには見えませんでした。それに聞くところによれば、こちらでは十分な幼年期の教育が為されていないというではないですか。」
 「そ、それは・・・。なにせ急にエカテリーナ会の孤児院から引き取ってくれと、なかば押し付けられるような形で引き取らされたものですから。」
 アレクセイ修道院の老僧院長は、ロザリンド修道院のナタリー修道長からの申し出をじつは渡りに船と考えていたのだった。
 「しかし、あのような若者を女だけのロザリンド女子修道院に入れても大丈夫なのですか?」
 「若者とは言ってもまだ子供です。わたしが責任を持って問題を起こさないように躾と教育をさせます。修道院には庭木の手入れなど、修道女の手に余る仕事が多くあるのです。あの者には修道院の作男として育てあげるつもりです。普段から修道女には接触させないようにしますので、ご心配は無用です。」
 ナタリー修道長は、一晩の逢瀬を過ごしてすっかり若いヤコブが気に入ってしまったのだ。修道院の作男とは言っていたが、自分のペットのように囲い込むつもりなのだった。

マリア十字架持ち

 「お帰りなさいませ、ナタリー修道長さま。」
 「ああ、マリアよ。何事もなく、無事に過ごせましたか?」
 「あっ、ええっ。ぶ、無事・・・です。」
 「そう? ならば良かったです。イワノフ神父はどうしました?」
 「あ、あの・・・。昨晩遅くなる前にこちらを出られました。あの、私に何か用があるとか?」
 「ああ、そうでした。実はアレクセイ修道院から若い子を作男の見習いとして引き取ることになったのです。マリア、お前はミッションスクールの高校を出ていましたよね。なので、お前にはヤコブの義務教育相当の勉強の面倒を見て貰いたいのです。それが条件なので・・・。」
 「義務教育相当の勉強・・・? 中学校程度のものでしょうか?」
 「そう。外の教育機関に通わせる訳にはゆかないものですからね。一日2時間程度でいいでしょう。ただ、お前にヤコブの教育担当をして貰う為にはひとつだけ条件があります。」
 「条件・・・? いったい、それは?」
 「ヤコブはまだ子供です。しかし大人になる少し前ということではあります。万が一にも間違いを冒したりしないようにする必要があります。」
 「はあ・・・。間違いを起こさない・・・。」
 マリアは事態が呑み込めておらず、怪訝な顔をするしかなかったのだった。

 「ヤコブよ。入って来なさい。」
 ナタリーが声を掛けると、ヤコブと呼ばれた少年がマリアとナタリー修道長だけで居る小部屋にその少年が入ってきた。

マリア

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