夢から目覚め

妄想小説

女子修道院の隠された秘密



 三十

 それから暫く立ったある夜のこと、マリアは何となく寝付かれなくて外の空気に当ろうと僧院の二階のベランダに出てみたのだった。虫の報せのようなものがあったのかもしれない。マリアは僧院の中庭を横切ってくる黒い影を認めたのだった。
 (あれは、確かヤコブが暮らすことになった古い作男小屋のほうからだったわ。)
 黒い影は中庭を通り過ぎると、僧院の建物のすぐ傍まで来て姿が見えなくなってしまった。マリアはイワノフ神父が来られた夜に、僧院に闖入者があったことを思い出していた。
 (ヤコブがこんな夜更けに外を出歩くとは思えないし、まさかまた侵入者が居るのでは・・・。)
 不安になったマリアはランタンに灯を点して様子を見に出てみることにした。マリアは一時、夜の見回りを見習い修道女の仕事として仰せつかっていたことがあるので、見回りには慣れていた。
 一階に降りると、黒い影が消えた辺りまでやって来る。そこは中にはから修道院内の回廊へ繋がる場所で外から回廊へ入るには特に扉を通る必要はないのだった。
 (この先は、ナタリー修道長の部屋だし、そっちの筈はないわ。礼拝堂の方かしら。)
 マリアはランタンの灯りだけを頼りに礼拝堂の方の様子を見に行くことにした。しかしマリアの後方でマリアの姿をじっと見つめている影があることには気づいていないのだった。

マリア先導

 (一体誰だったのかしら。私の見間違えであればいいのだけれど・・・。)

 「そうですか、マリア。黒い影ね。でも、昨夜は特に不審な事があった形跡はないので、貴女の見間違えかもしれません。そうだわ。夜、若い女が見回りをするのは危険だし心配だから、夜の見回りはこれからはあのヤコブの仕事にすることにしましょう。貴女は夜は外に出ないようにしなさい。」
 「そうですか。分かりました。宜しくお願いします。」
 マリアは次の朝にナタリー修道女長に自分が見たと思ったものの事を伝えに行き、何事もなかったことに安堵したのだった。

マリア

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