妄想小説
競泳エースに迫る復讐の罠
三十二
バチバチバチッ。
トシローはすぐ傍で衝撃音と共に閃光が一瞬走るのを見ただけだった。そしてその閃光は自分の方にもすぐ後に激痛と共に当てられるのだとは思ってもいなかったのだ。
バチバチバチッ。
再び明かりが点けられた時には二人の男は完全に気絶して床に倒れ伏していた。
「キヨなのね。」
「はい、お嬢様。今、縄を解いて差し上げます。」
「やはり気づいてくれていたのね。」
「はい、お嬢様。一旦帰った振りをしてからこっそり戻って屋敷の中に忍び込んでいました。旦那様から何か不測の事態が起こった時に使うようにとカラーボールとスタンガンを預けられておりました。それを使う機会がまさか来るとは・・・。」
「美桜は? 美桜はどうしているの?」
「あのお嬢さんは先に助けだして、今頃はあの三人の不良共を裏の土蔵の中に閉じ込めている頃だと思います。」
麗華は縄をキヨに解いて貰うとその縄を使ってスタンガンで気絶させられている男達を後ろ手に縛った上で目隠しもしてしまう。男達が身動き出来なくなったのを確認すると急いで最低限の服を纏った上でキヨの案内で美桜が待っている筈の土蔵の方へ向かうのだった。
「美桜。無事だった?」
「大丈夫よ。キヨさんに言われた通りにあいつ等に見られるようにしながら土蔵に逃げ込んだの。それで中にあった縄梯子で高窓から外に出て、あいつ等が追いかけてきて土蔵に入り込んだところで外から閂を掛けたの。勿論縄梯子も引き上げてね。」
麗華は美桜の首尾の良さに舌を巻くが、それ以上にそれを指図したキヨの再配にも驚くのだった。
「ね、あの二人の男達は?」
「今キヨがスタンガンで気絶させたので縛って地下室に寝かせているけど、あのままじゃ心配よね。」
「だったら、あの二人もこの土蔵に閉じ込めてしまえばいいわ。」
「美桜。そんなこと、出来るの?」
しかしキヨはその方法まで美桜に伝授してあったのだ。
「畜生、あの美桜って女。朱美、何処にも見当たらねえよ。」
「悦子、そんな筈はないわ。アタイ達、確かにあの女がこの土蔵に入るのを見たよな。」
「どっかに秘密の出口があるんだよ、悦子。それじゃなっきゃアイツが消える訳ねえもん。」
「吟子の言うとおりだよ。どっかに出口がある筈だ。おい、悦子。入口の扉、もう一度開かないか試してみてよ。」
「ああ。でもさっきから何度も試してんだけど、ビクともしねえんだよ。畜生、やっぱり嵌められたんだな。アタイ等、ここに閉じ込められちゃったんだよ。」
「あ、あれっ・・・。朱美っ。あそこ、あの上。見てごらんよ。あれ、縄梯子じゃない?」
「ん? 吟子、どれっ。あ、あれか・・・。ううむ。確かに縄梯子だな、あれは。でも、あんな高いところ、どうやって昇るっていうんだい?」
「きっと下まで垂らしてあったのを、美桜がよじ登ってあそこの高窓から外に出てその後、縄梯子を引き上げたんじゃないか?」
「なるほど・・・。そういう事か。悦子、あそこまで何とか手が届かないか?」
「む、無理よ。5m近くはあると思うわ。」

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