妄想小説
競泳エースに迫る復讐の罠
十八
「ちっ。間が悪りぃな。何とか言って追い返せねえのか?」
「合鍵は持っているので、入ってきてしまうと思います。」
「何だって? そうか・・・。じゃ、インターホンに出て今風呂に入っていたんで裸なのですぐに服を着てそっちに行くからそこで待ってるようにって言いな。」
麗華は朱美が言う通りに取り敢えずインターホンに答えて家政婦のキヨを門のところで待たせることにした。朱美と悦子の二人が監視する中で自分の部屋でさっと服を身に着ける。その間に朱美は麗華に家政婦に言うセリフを吹き込むのだった。
「いいか。勝手なことを喋ったりしたらあの家政婦も一緒に人質に連れ込むからな。」
「だ、駄目よ。キヨさんまで巻き込む訳にはゆかないわ。貴女が言ったとおりに話すからキヨを巻き込むのは止めてっ。」
朱美は悦子に念の為に走り出して逃げたりしないように後ろ手に手錠を掛けて縄を通し、その縄尻を見られないように麗華のすぐ後ろに立って一緒に門のところまで出ていくのだった。

「どうしたの、キヨっ。」
「どうしたのって・・・。夕食の食材を持ってきたんですよ。わざわざお嬢さんが出てこなくても私が自分で厨房まで運びましたのに。」
「ああ、そうだったわね。でも、いいの。今晩は友達が来てるので私達だけでパーティをやろうってことになったの。折角お父様もお母様もいらっしゃらない珍しい機会だから私達だけで過ごそうって話していたのよ。だからキヨは明日の昼過ぎまで来なくていいわ。」
「でも、この食材はどう致しましょうか。」
「あの・・・。今日来る友達の中に料理が得意な人が居るからその人に作って貰うわ。」
「あっ、お手伝いさん? 私、麗華の友達ですぅ。その荷物、私が預かりますからもういいですよ。」
「あら、初めまして。そうですか。それじゃあ・・・。」
後ろ手に手錠を掛けられてキヨから受け取ることが出来ない麗華の代わりに薄くだけ開けた門扉から顔を見せた悦子が手を伸ばして荷物を家政婦から受け取る。
「あの、プールはお使いになるのですか? プールのお掃除が出来ていたかどうか?」
「ああ、いや。今日来てる友達は水泳部の人達じゃないの。だから大丈夫よ。」
「左様でございますか。わかりました。それでは明日の昼過ぎにまたこちらに参りますので。」
「よろしくね。」
「承知いたしました、お嬢様。」
「さようなら、キヨ。」
そこまで言うと悦子が後ろからピシャッと門扉を閉じてしまう。
悦子が門扉に耳を当てて、家政婦が立ち去る足音を確認すると後ろの方に控えていた朱美の方に頷いて合図する。
「ふう。危ないところだったわね。でもこれで明日の昼まではたっぷりと愉しめそうね。」
麗華は二人のスケバンが明日まで居座るつもりらしいことを知って落胆するのだった。
「さっき、あの婆さん。妙なことを言ってたわねえ。プールがどうのこうの・・・とか。」
麗華はちょっと躊躇ってからどうせすぐにばれるに違いないと思ってスケバンたちに話すことにした。
「うちには私個人専用の練習プールがあるんです。時々水泳部の友達もやって来て使うことがあるのでああ言ったんだと思います。」
「アンタ専用のプールだって?」
「母が昔、競泳の選手だったんです。それで子供の頃から私に競泳を教え込む為に父が敷地内にプールを作らせたのです。」
「何だって? 自分の家に自分専用のプールだって・・・。ちょっとそいつを見せて貰おうか。」

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