悪夢の前夜祭
第三部
八十
「本当に若そうだね、君たち。えーっとアミーちゃんとエリーちゃんだっけ。高校生って言っても信じちゃう人が居るんじゃないか?」
「あら、いやだあ。社長さんたらっ。高校生じゃ、こんな店でバイトは出来ませんよ。アタシたち、結構若作りしてるんで齢を聞いちゃだめですよ。」
「あはは。そうだな。齢を訊いたりするのは野暮だよな。僕の事、社長さんだなんて・・・。」
「あら、さっき権藤社長からそう聞きましたけど。何、なさってるんですか?」
「あ、いやまあ。社長って言えば、社長みたいなもんかな。」
「結構、硬いお仕事なんでしょ。今日はリラックスなさってね。」
そう言いながら、悦子は田山の膝の上に自分の手を乗せる。
「エリーちゃん。お酒、新しいの作って差し上げて。」
普段キャバクラなど来たことがない田山は思いもかけない若いキャバ嬢に挟まれて浮足立っていた。
酒が大分進んできたところで、田山は一番気になっていた権藤から薦められた店のことを切り出してみる。
「なあ、アミーちゃん。さっき権藤・・・、あ、いや。権藤社長がM’sって名前の店の事、紹介してたんだけどこの店と関係深いのかい?」
「ああ、M’sね。勿論よ。だって経営者が一緒だもの。ワタシたちはM’sとは契約してないけど、結構いい子が居るみたいよ。社長さんもやっぱり男ね。ああいうの、興味あるのね。」
「ああいうのって・・・。知ってるの、どういうのか?」
「そりゃ勿論。この店で紹介されて行く人って多いから。あそこはイチゲンじゃ入れない店よ。何せ秘密厳守が厳しいからっ。」
「絶対ばれないって聞いたけど、本当かい?」
「それは絶対よ。それが売りなんだから。だから大きい声じゃ言えないけど、警察関係とか学校関係とか利用してる人、意外と多いらしいわよ。」
学校関係と聞いて、田山はぎくりとする。しかし自分の事も権藤自身の事も学校関係者とは教えてないらしいことに今更ながらに安心感を持ったのだった。
「権藤社長に言われたんでしょ、一回目は只だからって。只なんだから一回は試しておくべきよ。アタシから権藤社長に言っといてあげるわ。どんなタイプが好みなの? どエムタイプ? それとも清楚な嫌がる振りをするタイプ?」
「そ、そうだなあ・・・。一見、真面目そうでそんな趣味なさそうなのに一旦縛られると激しく燃えるような感じ・・・かな?」
「やっぱりそう言うの、好きなんだ。学校の先生みたいなタイプでしょう。見た目は澄ましているのに、実はってやつ。男の人ってそういうの、好きよね。女教師って聞いただけで興奮したりするんだもの。いいわ。権藤社長にそういうタイプの人、探しておいて貰うから。」
キャバ嬢に扮した朱美は獲物がだんだん罠に嵌まっていくのにゾクゾクしながら話を合わせていくのだった。実は朱美が西高の運動部キャプテン達やその顧問教師等を陥れた手口は、祖父の権藤の手ほどきによるものが殆どだったのだ。
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