悪夢の前夜祭
第一部
一
「あら、貴方。この学校の生徒ではないわね。その制服は確か・・・。」
「はい、トーコーです。東雲高校の生徒です。」
「えっ、で。東雲高校の生徒さんがどうして今頃二シコーに?」
「生徒会顧問の松下菜々子先生ですよね。私、実は二シコー生徒会長の水野美保さんに呼ばれたんです。明日の文化祭の準備を手伝って欲しいって。」
「あら、そうだったのね。ご苦労様。貴方、生徒会室の場所はご存じ?」
「ええ。でも、今水野さん、体育館の用具倉庫で作業をしているそうなんです。体育館の用具倉庫ってどっちですか?」
「ああ、いいわ。私も水野さんにもうそろそろ今日は終わりにして帰る準備をするように伝えに行くところだったの。私が案内するわ。」
「そうですか。ではお願いします。」
生徒会顧問をしている松下菜々子は隣の東雲高校から応援にやってきたという名前も知らない生徒を引率して体育館の方へ向かうのだった。
松下菜々子が勤める西湘高校は県内有数の進学校で通称西高(二シコー)と呼ばれている。一方、西高の真向いにある東雲学園東雲商業高校は通称東高(トーコー)と呼ばれ、不良ばかりが集まる問題高校だった。
「用具倉庫はこっちよ。貴方、お名前は?」
「ああ、桐野です。桐野朱美っ。」
「あ、そう。桐野さん。水野さんは用具倉庫なんかで何してるのかしらね。」
松下菜々子が体育館の奥まで桐野朱美を案内してきて、自分から先に立って用具倉庫室の扉を開ける。しかし扉の中は暗幕が張ってある。
「あら、何かしら。この垂れ幕は。真っ暗じゃないの。えーっと明かりのスイッチはっと・・・。」
「先生、待って。明かりが点くと不味い作業をしてるのじゃないかしら。写真の現像とか・・・。」
後ろから付いてきた東高の朱美がそう声をかける。
「ああ、そうかもね。えーっと、松下ですけど水野さん。いらっしゃる?」
松下菜々子があまり光が多く入らないように慎重に暗幕になっているらしい垂れ幕を捲って身を中に滑り込ませようとする。中は真っ暗で何も見えない。暗闇に目が慣れてくるのを待って菜々子は目を凝らしている。その菜々子の目の前で突然閃光が走った。
(うっ、ま、眩しいっ・・・。)
目を見開いていた菜々子を襲った強烈な光が一瞬にして全く何も見えない世界へ菜々子を引きずり込む。視界を奪われた菜々子は後ろから近づいてくる者の姿に全く気付いていない。そしてその背後に迫った者が菜々子の首筋に当てた物から放たれた別の閃光によって今度は身体の自由まで奪われてしまうのだ。
バチバチバチバチッ・・・。
首筋に当てられたスタンガンの衝撃で菜々子は声を発することも出来ないままその場に崩れ落ちてしまったのだった。
「生徒会顧問って言ってたけど、案外ちょろいもんだわね。」
「悦子。いいから、この縄でこいつを縛っちゃって。口にはこのガムテープを貼り付けておくのよ。」
用具倉庫室に先に忍び込んでいて朱美が生徒会顧問の教師を誘き寄せてくるのを待っていた悦子は、縄とガムテープを朱美から手渡されるとてきぱきと指示に従うのだった。
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