悪夢の前夜祭
第三部
七十五
コンコン。
「あの、早乙女玲子です。」
「ああ、はいりなさい。さ、ここへ座って。」
「は、はいっ。」
二度目のカウンセリングに診察室にやってきた玲子を招じ入れると、目の前の椅子に腰掛けるよう勧める鬼頭医師だった。
「どうだね、その後?」
「はいっ。何だか、あれから随分楽になった気がします。」
「ふむ。この間のコンピュータが解析した君のAI診断でも、何かに対する強いこだわりがあるように出ているね。それから抑圧感情も強いようだ。もっと自分自身を解き放って、気持ちを楽にすることが肝要だ。抑圧感情が相当なストレスになっている傾向がみられるね。」
「抑圧・・・ですか。」
「何か、思い当たることでもあるのかね?」
「ええっと・・・・。」
玲子は突然、口ごもる。それからおもむろに顔を挙げると喉に痞えていた言葉を吐きだす。
「先生。医師と患者の間って、守秘義務ってあるんですよね。」
「ああ、もちろんだよ。患者の秘密は医師は守らねばならない。」
「でしたら思い切って言うんですが、あの・・・。私、この間のカウンセリングを受けてから、夜眠る前にどうしてもしたくなっちゃうんです。」
「したくなる・・・? 何を・・・かね?」
「あの・・・。オ、オナニーです。身体が疼いてしまうんです。」
玲子は恥ずかしさに顔を赤らめ、俯いてしまう。
「ああ、私は医師だからそんなに恥ずかしがらなくていい。思春期の女性が性的な欲情をうまくコントロール出来ないのはよくあることなんだ。それに若い時の自慰をしたくなる欲情は、ごくごく正常なものなんだ。」
「そうなんでしょうか。実は、夜、ベッドに入って気がつくと、指が勝手にあそこをまさぐっているんです。以前にはそんなこと、無かったのに。」
「以前は無かった? 大丈夫。それは君が成長したということなんだよ。」
「成長・・・ですか。」
「そう。オナニーは子供が成長して大人になる為には必要な過程なのだよ。それを無理に抑圧してはいけない。オナニーしたくなったらどんどんしなさい。」
「先生。毎晩、そんな事をしていたら色情魔のようになってしまったりしませんか?」
「ははは。そんな事はないよ。だんだん心と身体のバランスが取れてきて、過度な欲情は次第に収まってくる筈だ。それを抑圧する方が却って精神的にも肉体的にも不調を呼び起こす原因となるものなのだよ。そうだ。君にいいものを貸してあげよう。」
そう言って鬼頭医師は立ち上がると戸棚の抽斗の奥から何やら出してくる。
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