美月教壇挨拶

悪夢の前夜祭


 第三部



 六十

 「えーっ、皆さん。私は西高で古文の教師をしている如月美月と言います。今日は交換授業ということで、こちら東高で古文の授業を担当させて頂きます。よろしくね。」
 美月が教壇から見渡すと、男女共学の筈なのに何故か男子生徒しか居ないことに驚くと共に何か嫌な予感がしてくる。
 「最初にプリントを配ります。これは決してテストのようなものではなく、皆さんの古文に対する理解度合を知る為のものですので、気楽に書いてくださいね。これを見ながら皆さんに合わせた授業をしていく予定です。」
 美月が列の先頭の生徒等にプリントの束を渡し、全員に一枚ずつ渡るように指示する。
 「じゃ、始めてっ。」
 美月は授業が順調に滑り出したことに安心し、皆の様子を見廻る為に席と席の間を観察しながら歩いていく。
 一番後ろの列まで達しようとした時、お尻に異変を感じる。
 (え、何・・・?)
 お尻を撫でられたような気がしたのだった。さっと振り返るが机に向かって顔を下げて書き込みをしている生徒しか見当たらない。
 (変ね。気のせいだったのかしら・・・。)
 そう思って教室の一番奥に進もうとしている時、背後から微かな囁き声が聞こえた。
 「先生。憶えているよ。」
 その声を耳にして美月はドキリとする。聞き覚えのある特徴ある低い声だったからだ。
 (あれは、確かあの時の・・・。)
 美月は西高体育館に呼び出されて凌辱を受けた時のことを思い出していた。あの時は目隠しをさせられていたので顔は見ていないが、声はちゃんと覚えていたのだ。
 (こ、この中にあの時の男子生徒がいるのだわ。)

古文授業

 身の危険を感じて足が震えそうになる。その時、今度はどこからともなく紙を丸めたようなものが美月の居る生徒等の席の後方に向けて投げ込まれた。慌てて振り向くが、何処から投げられたのかは分からなかった。生徒等もそんなものが飛んでいった事に誰も気づいていない風だった。
 美月は何食わぬ顔をしてその丸められた紙を拾い上げ、広げてみて一瞬で凍り付く。
 (こ、これは・・・。)

高野恭子顔

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