合併密談

悪夢の前夜祭


 第三部



 七十九

 「それじゃあ、西高とウチの東高の合併については前向きに検討して貰えると思っていいんですな。」
 西高校長であり西高理事会の会長でもある田山一郎は、目の前の東高理事長の権藤重蔵の強引な話の進め方に苦慮しながら苦し紛れの回答をする。
 「いや、今の段階は理事会に提案をするということまでにしておいてくれませんか。うちはお宅と違って理事会の規模も桁違いに小さいので私の提案が通らないことは無いとは思うんですが、何せ伝統ある西湘高校には理事ではないが口うるさいOBも少なからず居るので根回しが必要なのです。」
 「そこんところはアンタに宜しくお願いしますよ。じゃ、野暮な話はこれぐらいにして私は退散するんで、あとはこの店で愉しんでいってください。ここの店は私が古くから馴染みにしている場所で全部私のツケが利くんで遠慮なく呑んでくださいな。独りで呑むのは何だろうから、店一番の若いいい女の子も付けるように手配済みなんでね。」
 「はあ、そうですか。それじゃお言葉に甘えて。」
 「おーい、アミーとエリーを呼んでくれっ。俺はこれで帰るんでツケは全部俺の方でいいからな。」
  権藤が席を立ちがてら黒服のフロアチーフに声を掛ける。
  出口に向かう権藤と入れ替わりに奥から出てきたのは、すっかりキャバ嬢っぽい濃い目の化粧で派手なドレスを着こんだ朱美と悦子の二人だった。濃い化粧は見た目にはどう見ても高校生には思えないので、面識のない西高の校長にはばれる筈はないのだった。すれ違いざま、権藤は二人に低い声で囁くように言葉を掛ける。
 「じゃ、あとは頼んだぞ。」
 「大丈夫よ。任せておいて、おじいちゃま。」
 権藤は姓は違うものの、朱美の祖父なのだ。そしてその店は朱美の父親が経営しているのだが、キャバクラの事情などに疎い田山校長が知る筈もないのだった。権藤は頷くと、店を悠然と出ていくのだった。
 「いらっしゃいませ、田山さま。ご指名ありがとうございます。アミーですぅ。」
 「いらっしゃいませ。エミーですぅ。」
 二人は田山を挟むようにしてボックス席に着く。

高野恭子顔

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