菜々子教室連行

悪夢の前夜祭


 第三部



 五十七

 朱美は菜々子が逃げられないように悦子も呼んで二人で菜々子を教室に連行する。廊下では、菜々子のあまりに短いスカートから股間が見えてしまっている恰好を目撃した女子生徒たちが嘲笑しながら噂話をしているのが聞こえていた。
 「さ、この教室よ。ここは男子だけのクラスだから、先生の美脚、皆んなに見せびらかしてあげなさい。」
 朱美は菜々子を後ろから小突くように教室に押し込むのだった。菜々子は仕方なく、スカートの裾の前を下に引っ張るようにして股間を隠しながら急ぎ足で教卓の後ろに入って下半身が生徒達から見えないように立つ。

教壇挨拶

 「み、皆さん。こんにちは。交換授業で西高から来ました松下菜々子と言います。今日は皆さんと英語の授業を一緒にやってゆきたいと思います。」
 ピューッ。
 後ろの方から指笛の音が響く。
 「先生。いつもそんな短いスカートなんですかあ?」
 素っ頓狂な生徒の言葉に教室内がどっと沸く。
 「あ、こ、これは・・・。いつもじゃないんだけど。」
 「じゃ、今日は東高男子の為に特別サービスって訳っすね。」
 「あ、いえ・・・。まあ、そんなところかしら。」
 「その下はどんなパンツ穿いてんすか?」
 「え? そ、それは・・・。」
 「もしかして、穿いてないとか。」
 再び教室内がどっと沸く。
 「あ、あの・・・。今日は英語の授業なので。えーっと、皆さんの教科書はどんなのを使ってるのかしら?」
 「へへへ。先生よ。うちらのクラスは勉強出来ねえ奴ばかりの落ちこぼれクラスなんで、教科書なんて使ってねえんだよ。」
 「え? じゃ、どうやって勉強するの・・・。」
 「俺たちが教えて欲しい単語を先生が英語で教えてくれるってやり方よ。先生、頼むぜ。」
 「そ、そうなの。どんな単語を教えて欲しいのかしら?」
 「先生。おちんちんは何て言うんだい?」
 「え、そ、それは・・・。ピーヌスよ。」
 「は? 何だって? もっかい言ってよ。」
 「ピ、ピーヌス。」
 「え、ペニスじゃねえのかよ。」
 「ペニスってのは日本語的発音なの。いわゆるカタカナ英語ね。そんな発音じゃ外人には通じないわ。」
 「じゃ、先生。女のアソコは?」
 「え? そ、それは・・・。ヴァ、ヴァギナよ。」
 「えーっ? 先生。ウィメンズ・ザットプレイスじゃないのかよ。」
 「先生。あそこって英語でバギナって言うんだ。」
 教室内が再びどっと沸く。
 「ち、違うわ。そういうあそこだったの?」
 「それじゃ、先生が言ったバギナって、日本語じゃ何て言うんだい?」
 「え、そ、それは・・・。」
 「バギナ、バギナっ・・・。先生、教えてっ。バギナって何?」
 「皆んな、静かにっ。女性の性器のことです。」
 「えっ、ジョセイノセイキ? それっ、何語? もっと簡単な日本語ないの?」
 「うっ、そ、そんなの言えないわ。」
 「じゃ、先生。セイコーは英語で何て言うの?」
 「え、それは・・・。セクシャルインターコースよ。」
 「あれえ。サクセスじゃなかったんだ。」
 教室内にギャハハハという笑い声が飛び交う。

 英語の授業は完全に生徒の術中に嵌まった菜々子へからかいの連続だった。まじめな授業をするつもりだった菜々子は何とか正常な授業に戻そうとするのだったが、言葉の罠にどんどん嵌まって普通だったら言えないような卑猥な言葉をあれこれと言わされてしまうのだった。
 終了のチャイムが鳴り響くのを聞いて、菜々子はやっと救われたという気持ちだった。
 「これで授業を終わりにします。」
 逃げるように教壇を降りると教室の外へ駆け出そうとした菜々子の腕を後ろから捉える者が居た。
 「な、何っ・・・。」
 後ろを振り向くと四人の男が立っていて、そのうちの一人が菜々子の二の腕をしっかりと掴んでいるのだった。
 「先生。まだ授業は終わっちゃいねえよ。俺たちには補習が必要なんでね。」
 「ほ、補習って・・・。そんなの、聞いてないわ。」
 「そりゃそうさ。今、初めて言うんだからな。ここじゃ他の生徒の目があるから隣で話そうか。」
 菜々子の腕を掴んでいる男が隣の男子生徒に顎で合図すると、教室の扉をさっと開き、(さ、こちらへ)とばかりに菜々子に手招きする。
 菜々子は四人の男子生徒に囲まれるようにして誰も居ない空っぽの隣の教室に導かれ、扉がしっかりと閉められると掃除用のモップで内側から閂が掛けられる。

高野恭子顔

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