悪夢の前夜祭
第三部
五十九
「で、どうだったのかね。交換授業は。」
菜々子は校長室に報告に来ていて、結果を訊かれる。
「とても有意義だったと思います。特に先方の男子生徒からは好評でした。」
「で、どうするのかね。この先は。」
「もう少しトライヤルを続けてみる必要があるかと。向こうからは古文の如月美月先生に来て欲しいと伺っています。」
「じゃ、君から頼んでみてはどうかね。」
「私からではちょっと・・・。ここは是非、校長の方から派遣を言い渡して欲しいのですが。」
「同僚の君から派遣を言い渡すのは言いにくいかね。わかった。ならば如月先生に私の方からお願いしよう。」
如月美月先生を次の交換授業の派遣者に指名するよう菜々子に命じたのは朱美だった。文化祭前夜の事件の後、何かにつけて自分のことを疑っている節のある如月美月に東高への派遣を言い渡すのは難しいと答えると、校長を使えと朱美に言われたのだった。朱美は美月先生は断れない筈だと不審な笑みを浮かべながら言うのだった。
「で、交換というからには東高からもこちらへ誰か派遣してくるのかね、松下先生?」
「ああ、校長。それでしたらあちらの学校にはメンタル系の医療が専門の先生がいらっしゃるそうで、生徒のカウンセリングをしてくれる先生を派遣してくれるそうです。」
「メンタル系のカウンセリング? そんなのが必要な生徒が西高に居るのかね。」
「ええ。実は先だっての文化祭以降、休みがちになっている女子生徒が数名居りまして、一度診て貰ったらいいのではと考えているのです。」
「そうなのか。その辺は君に任せるからよろしく頼むよ。」
「承知いたしました。」
校長との交換授業の派遣に関する全ての台詞は、菜々子が朱美に言い含められたシナリオに沿ってのものなのだった。
「で、校長。私に東高に古文の交換授業に行けと仰るのですね。」
「ああ、如月先生。そうなんだよ。交換授業は一度、松下先生がやっているので様子を聞いてみるといい。」
「すると次の交換授業は松下先生が私にしろと言われたということですか?」
「あ、いや。先方の希望らしい。あ、そう言えば君はテニス部の顧問もしていたよね。テニス部のキャプテンの早乙女玲子はよく知ってるよね。」
「ええ、勿論です。早乙女が何か・・・。」
「早乙女玲子はこのところ学校を休みがちだと聞いたのだが、何か聞いているかね。」
「え、あ、いえ・・・。何も。それが何か・・・。」
「いや。交換授業で東高からも先生が逆に派遣されてくるらしいのだが、メンタルを専門にやっているカウンセリングの先生が来てくれるらしいので、一度診て貰ってはどうかと思うのだが、君はどう思う?」
「カウンセリングですか・・・。私から言っても聞き入れてくれるかどうか。」
「そうか。わかった。じゃ、生徒会顧問という立場でもあるので松下先生に薦めて貰おうかな。いいよね?」
「私がどうこう言う立場ではありませんので。」
同僚の松下菜々子が早乙女と話せば何か解決の取っ掛かりになるかもしれないと美月は考えたのだった。早乙女の凌辱ビデオで体育館に呼び出され自分自身が凌辱と辱めを受けて以降、何の手掛かりもない状態だったので、交換授業で東高に潜入してみれば何か掴めるかもしれないとも考えたのだった。
「ねえ、朱美。今度の如月美月って先公には何を仕掛けるの?」
「ああ、アイツには真の犯人は生徒会長の水野美保か生徒会顧問の松下菜々子が怪しいと思い込ませているから、菜々子みたいなのは仕掛けられないわね。代わりに疑惑をもっと深めさせようかと思っているのよ。」
そんな事が話されているとも知らずに、如月美月は東高に古文の交換授業に乗り込んできたのだった。
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