窓から様子伺い

悪夢の前夜祭


 第三部



 六十二

 パンティを抜き取るところを目撃されていたとも気づかない美月は、何食わぬ顔をして、生徒等の前方の教壇の方へ戻っていく。
 「はい。じゃあ、プリントを回収します。後ろの方から順に集めてきて。」
 男子生徒等が記入したプリントを束にして美月の方に差し出すので、それを何気ない風を装いながら受け取って、考えてきた通りにアンケートに基づいた授業を始めようとするのだが、どうしても意識はノーパンにさせられてしまったスカートの中に行ってしまうのだった。

 授業は記入されたプリントの内容を元に質問をして何人かの生徒を当てて答えさせる形で進められた。後ろの方の席で呟いた者を探し当てる為に、その付近の男子生徒を当てることも考えたが、分かってしまった時に自分が狼狽えてしまうことが怖ろしくて、それらしい付近の男子生徒を当てることはとうとう出来ないのだった。

 何とか無事最後まで古文の授業をやり通して終業のチャイムと同時に教室を出た美月を出迎えたのは、教室の外の廊下で待っていた朱美と悦子の二人だった。
 「あ、貴方たちはあの時の・・・。」
 「ええ、朱美と悦子よ。憶えててくれたのね、先生。」
 「え? ええ、憶えているわよ。どうして・・・、ここに?」
 「ああ。美月先生が交換授業で東高に来ているって聞いたのでどんな様子なのか見に来たんです、私達。」
 「え、何時から居るの。ここに・・・。」
 「ああ、たった今来たばかりです。私達の授業が少しだけ早めにおわったので急いで来たんです。」
 朱美がウィンクしながら言うのを聞いて、自分がパンティを脱ぐところは見られていないと胸を撫で下した美月だった。
 「先生、ちょっと中庭に出ませんか?」
 朱美がすかさず美月を生徒達が居ない校舎の外に誘い出す。美月の方も、何も知らない他の生徒に聞かれては困ることを朱美たちが迂闊に口にするのではないかと心配になって、生徒達が居ない外の中庭に一緒に出る。その際に朱美は悦子に耳打ちして、悦子には別の場所に行かせる。
 「じゃ、悦子。また後でね。」
 「それじゃ、先生。私はこれで。」
 悦子が離れて行くのを確認してからおもむろに朱美は美月に切り出すのだった。
 「ねえ、先生。もしかして下着、着けてないとかいうことはない?」
 朱美が突然口にした思いもかけない言葉に、美月は自分の事を見透かされたようで、顔を真っ赤にさせて狼狽える。
 「ど、どうして、そんな事・・・急に言うの?」
 美月は咄嗟に肯定も否定もせずに、言葉をかわす。
 「先生が何かのことで、脅されているんじゃないかって心配になったんです。」
 「脅される・・・?」
 「ええ、私達にも以前、そういう事があったから。」
 「え? 脅されて、下着を脱がされたりしたの?」
 「まあ、それに近いことかな。いろいろ・・・。先生は大丈夫?」
 「え、ええ。まあ・・・。それより、今でも何か脅されたりしてるの?」
 「あの文化祭の前の晩以降は特にないわ。何か、このところターゲットが変わってきたんじゃないかって気がする。」
 「ターゲットって。脅す相手って事?」
 「ええ、そうです。」
 咄嗟に美月は、そのターゲットが自分ではないのかと思い始める。
 「脅してる人って、心当たりはあるの?」
 「それが今のところ手掛かりがなくて。何時も下駄箱の中とかに突然指示とか命令とかが入っているんです。」
 「そ、そうなの。そうなのね・・・。」
 「先生。今日、美月先生が交換授業でこちらに来るって知ってるのは誰ですか?」
 「それは、校長、あ、西高のね。校長先生に言われたから・・・。」
 (それと松下先生かしら)と言いそうになって言葉を呑み込んだ美月だった。
 「何人かは知ってる筈だけど・・・。それが何か?」
 「いえ、別に。大したことじゃないですけど・・・。」
 そう言って朱美はそれ以上は追及しない。美月も交換授業のことを誰が知っているかはそれ以上言及しないことにする。しかし交換授業はそんなに多くの人が関わっている訳ではないことも美月は知っているのだった。
 「あの・・・。朱美さん。私、さっきの教室に忘れ物してきたみたいなの。ちょっと取りにゆくのでここで失礼させてくださいね。」
 「ああ、忘れ物だったら急いだほうがいいかも。それじゃ、如月先生。」
 如月美月が言っている忘れ物というのはさっきの交換授業の際に教室の後ろのゴミ箱に投げ入れたショーツのことに違いないことは朱美には分かっていた。しかし先ほど悦子に言って、先に回収しておくように言っておいたのだった。

高野恭子顔

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