狙われた弓道部長 麗華
七
朱美は睦男から聞いた裕也が真行寺麗華に告っていたという言葉がまだ引っ掛かっていた。
(まさか、そんな筈はないわ。裕也は私のものだと思っていたのに。やっぱりこのラブレターを渡したりしなくちゃ分かってくれないのかしら・・・。)
以前に書いて渡しきれなかったラブレターをまだ捨てきれずに持っていた朱美はそれを取り出してみる。しかしスケバンの長として張っている自分にはそんな乙女な部分を見せられる筈もなかった。
(そんな事したら笑われるだけだわ。やっぱり、実際に迫って告ってみるしかないわ。)
そう決心すると朱美は裕也の本心を確かめる為に教室で待ち伏せることにしたのだった。
裕也が放課後、何時、何処を通るのかはちゃんと把握している朱美だった。誰も居ない教室に潜んで裕也が通りかかるのを待ち伏せたのだった。
教室の扉のガラス窓から裕也が廊下を通り過ぎるのを確認した朱美は廊下に飛び出て勇気を振り絞って声を掛ける。
「裕也・・・。」
「ん? なんだ、朱美じゃないか。」
「ね、ちょっとこっちへ来て。」
訝し気な裕也の手を引っ張って誰も居ない教室の中へ引っ張り込む。
「ねえ、裕也。わたしって、裕也に取って何?」
どう告っていいか分からない朱美の口から出た言葉はそんな一言だった。
「なんだよ、藪から棒に?」
「ねえ、キスして。ここなら今、誰も居ないから。」
「キスして欲しいのかよ。」
朱美は裕也の顔が迫ってくるのを感じると思わず目を閉じてしまう。
(やっぱり裕也はわたしのものなんだわ・・・。)
しかし当然奪われると思っていた唇は奪われることはなかったのだ。
「誰か来るとまずいからな。」
その言葉は朱美には言い訳にしか聞こえなかったのだった。
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