狙われた弓道部長 麗華
三
「あの今弓を引いているヤツか?」
「そ、そう・・・です。」
今更嘘を吐いて誤魔化しきれないと悟った睦男は朱美の問いに頷くしかなかった。
朱美が覗き込んだ弓道部が将に練習をしている武道場の中で今にも引いた矢を放とうとしている凛とした麗華の姿に、朱美もはっと息を呑む。
「本当なんだな。あの女に裕也が声を掛けたっていうのは・・・。」
「あ、いや・・・。そ、そのう・・・。あ、聞き間違いかもしんないです。そんな風に聞こえただけで。」
狼狽える睦男の様子に朱美は確信する。
(裕也のやつ。ワタシって女が居ながら・・・。)
「あの・・・。朱美姐さん。心配、要らないですって。だってあの女。男性には興味が無いって言ってましたから。」
「何だって? それじゃ、裕也のほうが振られたってことじゃないか。」
「あ、いや。そ、それは・・・。」
朱美はあらためて小窓の向こうの弓道部の主将だという女をしげしげと眺める。
「何よ。澄ました顔しやがって。私の裕也に色目をつかうなんて。許せないわ。」
「あ、しかし、それは・・・。」
朱美の中では話がすっかり混乱して、麗華が氷川裕也を誘惑したかのように取られているのに睦男は気づいたが、下手に否定すれば火に油を注ぐ結果になりかねないと首を竦めて俯いてしまうのだった。
「吟子、悦子っ。竹刀を取ってくるのよ。それから腕っぷしの強い男を三人ほど引っ張っておいで。あいつにヤキを入れてやらなくっちゃね。」
「合点。朱美姐さんの男に手を出すなんて、懲らしめてやりましょ。」
スケバンの朱美と吟子、悦子が互いにほくそ笑むのを見て、睦男はとんでもないことになったと狼狽えるのだった。
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