狙われた弓道部長 麗華
十五
ビュッ。パシーン。
「当たりーっ。凄いです。真行寺先輩。これで三回連続でど真ん中命中です。」
「あら、偶々よ。そう言えば美桜さんの姿が見えないわね。朝練には来てたから休みって訳でもなさそうだし、練習を休むなんて珍しいわね。」
「そう言えば、放課後は姿を見てませんね。」
滅多に練習を休むことのない美桜が、その日に限って放課後の練習に姿を見せないのに訝しさと同時に嫌な予感を感じている麗華だった。
その時、下級生部員の一人があわただしく部長の麗華の元に走ってやってくる。
「部長っ。さっき外で不良グループのスケバンの一人がこれを部長に急いで渡して来いって。」
その下級生部員が麗華に手渡したのは紙を細く折りたたんで結んだものだった。
「何それ? まるで果たし状みたいね。何だか古風な感じ・・・。」
受け取った果たし文のような紙きれを丁寧に開くと他の部員には見えないようにしてさっと中身を検める。
<美桜は預かった。30分以内に岩田山児童公園まで一人で来い。丸腰で誰も連れずに来ること。来なければ美桜を代わりに処刑する。>
麗華の嫌な予感は当たってしまった。他の部員たちに見られないようにさっと紙を折りたたむと副部長の小柳を呼びつける。
「小柳さん。私はちょっと用が出来たので外します。皆の練習を私に代わって観てやって。」
「はい。いいですけど、部長、何か・・・。」
「いいのよ。ちょっとした用が出来ただけだから。じゃ。」
弓を道具室に置くと、制服に着替える為にロッカールームへ一人向かう麗華だった。
(代わりに処刑する・・・? つまり私を処刑するっていう意味なのね。まだ何か根に持っているのかしら。)
先日、散々に痛めつけられた股間のせいで半日以上は歩くことも出来なかった。あの時、顧問の先生が駆けつけて来なければもっと酷い目に遭っていたのかもしれなかった。麗華は部員たちに道場で遭ったことは顧問は勿論のこと、誰にも口外しないようにと口止めしていた。素直に独りで出向けば何をされるか分からない。しかしそうだとしても美桜を見殺しにする訳にもゆかない。部長としての責任が果たせないと麗華は思った。
岩田山児童公園は学校の裏手にある小山の更に裏側にあって一目に付きにくい場所だ。しかし昼間なら大抵は小学生などが何人も遊びに来ている筈なので手荒なことは出来ない筈と麗華は考えた。
麗華がスポーツ広場になっている公園の平らな場所へ続く丸太を並べて階段にした坂を上っていくと、見晴らしのいい場所まできたところで三人のスケバンが待っているのが見えた。少し遠くには小学生の男の子が数人ボール遊びをしているのが見える。大声を挙げれば声は届く距離だと判断した。
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