狙われた弓道部長 麗華
十
その時だった。
「きゃあああっ・・・。」
甲高い悲鳴が道場の奥に響き渡る。
「え、美桜・・・?」
聞き覚えのある声に思わず麗華が振り返った瞬間に隙が出来てしまった。晶の腕と肩を捉えていた麗華の力がほんの一瞬緩んだ隙に、晶が麗華の手首を今度は反対に捻り返してしまったのだ。
「し、しまった・・・。」
今度は麗華の方が腕を捉えられ抑え込まれてしまった。痛みに堪えながら顔を挙げた麗華の眼に後ろからスケバンの一人に羽交い絞めにされている美桜の姿があった。首筋には剃刀の刃らしきものが当てられているのだった。晶の形勢が不利と見るや、朱美があらかじめ打ち合わせしておいた通り、吟子に合図して美桜を剃刀で脅したのだった。
「麗華先輩―っ。わたしのことは構わずに戦ってっ。」
泣きそうな声で殊勝にそう叫んだ美桜だったがすでに手遅れの状態だった。腕を捩じられ肩を抑え込まれた麗華には既に身動き出来ない状態にあった。
その時今度は端で見ていた悦子がすくっと立ち上がって腕を取られて身動き出来ない麗華に近づいていく。その悦子の手の甲にはメリケンサックというヤンキーが喧嘩で使う鋼鉄製の武器が嵌められている。
「麗華、覚悟しなっ。」
悦子の手の甲に嵌められて鋼鉄の道具が、晶に抑え込まれて身動き出来ない麗華の鳩尾を正拳突きで襲う。
「あうううっ。」
「ふふふ。どうだい、アタイのメリケンサックは。ほら、もう一発。」
再び悦子の手の道具が麗華の無防備な鳩尾に襲い掛かる。
「ううっ・・・。」
さすがに普段から鍛えている麗華でも無防備な腹部を鋼鉄製の武器で殴られては堪らなかった。意識がすうっと遠のいていく。
「おい、なにすんだい。この女はおいらが倒すんだよっ。邪魔すんない。」
「晶姐さん。いいんですよ、もう。この後はアタシたちが片付けてやるんで。」
「なんだよお。タイマンの勝負を邪魔すんだったら、おいらはもうやめだ。」
「お役目ご苦労さんでした。もうお帰りくださって結構ですよ。晶姐さん。」
一対一の勝負に邪魔が入ったので晶は抑えていた麗華の腕と肩を放す。しかし既に麗華は二度に亘るメリケンサックの攻撃で意識を喪ってその場に崩れ落ちるのだった。
「おいらはもう帰るからなっ。」
晶と呼ばれた巨漢の女はもう興味がないとばかりにその場を離れようとする。倒れ込んだ弓道部長を助け起こそうと下級生部員たちが近寄ろうとするが、竹刀を手にしたスケバンたちがそれを阻む。
「お前ら、痛い目に遭いたくなかったら隅っこで大人しくしてな。」
代わりに倒れ込んだ麗華の傍に駆け寄ったのは朱美の方だった。
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