後ろ手手錠

狙われた弓道部長 麗華




 二十八

 「男たち・・・? 戦うですって?」
 「そうよ。この間、アンタに煮え湯を飲まされた連中がどうしてもリベンジしたいんですって。でもあいつら、アンタと違って武術じゃど素人もいいとこだから、このくらいのハンデをつけなくっちゃね。」
 「この間、私を襲おうとさせた男たちね。彼らと手錠を掛けられたまま戦えと言うの?」
 「そうよ。脚は自由に使えるようにさせておいてあげるわ。回し蹴りだって自由に出来るわよ。ただし、そのトレーナの下に何も穿いてないのがばれちゃって良ければね。」
 麗華は女たちの卑劣なやり方に戦慄を覚える。前回あっと言う間に合気道で捩じ伏せた麗華の力も後ろ手で両手の自由を奪われたままでは完全に封じられて殆ど何も発揮することは出来ない。
 「そうだ。そんな無粋な無地のトレーナじゃ、男たちも興ざめだわね。女の子らしくそこに胸飾りを付けてあげるわ。」
 そういうと、両手の自由を奪われた麗華のトレーナを胸倉のところで掴んで引き寄せる。
 「な、何するつもりっ・・・。」
 女はあらかじめ準備してあったらしい大きめの安全ピンを背後から取り出すと、さっきまで手にしていた麗華が脱いだばかりのショーツをトレーナの前に当てて安全ピンで留めてしまう。
 「あーら。胸にフリルみたいに飾りがついて、それなら男たちをそそらせるわね。」
 「止めてっ。こんな事、するの・・・。」
 女たちの意図は明らかだった。少し長めのトレーナを羽織った麗華だが、素足は丸出しだ。胸元にショーツを留められているのを見られたら、トレーナの下には何も穿いていませんと宣伝しているようなものなのだ。
 「ひ、酷いわ。こんな事。」



 「あーら、アンタったら。凄い刺激的な格好よ。そんな格好のアンタみたら、どんな男だって張り切っちゃうでしょうね。さ、準備が出来たから男たちを呼んできてっ。」
 「ま、待って。こんな格好で男子の前に出るだなんて。出来ないわ、そんな事っ。」
 「あらあら。大丈夫よ。アンタが出ていく訳じゃなくて、あいつらの方がこっちにやって来るんだから。アンタはその格好で只、待っていればいいだけよ。」
 「やめてっ。お願い・・・。
 麗華が逃げ出そうと辺りを窺い始める前にスケバンの女二人が逃げられないように麗華の二の腕を両側からがっしりと捉えてしまう。
 「いやっ。放してっ・・・。」
 必死に捉えられた二の腕を掴んでいる手を振り放そうともがきながら、逃げる場所を探すが部屋の出口は今しがた男たちを呼びに行ったらしい女たちが出て行った一箇所しか見当たらない。自分の腕を捕らえている女二人を突き飛ばしてドアへ走り寄ったとしても、手錠を掛けられた後ろ手でドアノブを探らなくてはならない。そうこうするうちに再び捕らえられてしまうのは必至だった。
 (男一人だけだったら、回し蹴りの一撃で倒せるかもしれない・・・。)
 しかし、スケバンの女が男たちと言っていたのが引っ掛かった。以前襲われた時に居た男は三人居た。
 (もし三人居たら、一人は回し蹴りで倒せたとしても三人同時には無理だ。しかも一人に対して回し蹴りを当てれば、トレーナの下に何も穿いてない股間を残りの二人には見られてしまうことになる。)
 トレーナの下は素っ裸で、手錠を掛けられていると男たちに知られてしまえば、もはや勝機は無くなる。自分の攻撃は回し蹴りしかないと分かってしまえば当然それを警戒しながら迫ってくる筈だからだ。
 「ねえ、アンタ。どうする。このまま男たちが来るのを待って女に飢えた狼たちの餌食になる? それとも私達に泣きついて赦して貰う? アンタが土下座して何でも言うことを聞く奴隷になりますからお許しくださいってこの場で頭を下げたら考えてもいいわよ。」
 女たちの非情の言葉に、麗華は顔を上げて鋭く睨み返す。
 「そんな事、死んだって願い下げよっ。」
 「あら、大層な口、利いたわね。そんならアンタが狼たちの餌食になるところ、たっぷりと高みの見物とさせて貰おうじゃないの。」
 ちょうどその時、たった一つの出口である扉の外ががやがやと騒がしくなる。麗華は男たちが到着したのを知って、もはや逃れるチャンスは無くなったことを悟った。麗華は深く息を吐くと覚悟を決める。
 入ってきたのは麗華が予測したとおり、先日自分が合気道で捩じ伏せた三人だった。両手が自由なら例え相手が三人だろうが簡単に倒せる自信があった。しかし今回は両手は使えない上に下手に動けばトレーナーの下の下着すらつけてない素の裸を晒してしまうことになるのだ。
 「おう、この間の女じゃねえか。あん時はまさかお前があんな武道を使うなんて思いもしなかったから油断したが、今度はそうはいかねえぞ。あん時の借りをしっかり返させて貰うぜ。」
 麗華は二の腕を両方から抑え込んでいた女達が手を放して離れていったので部屋の中央から慎重に少しずつ後ろへ下がる。それと共に男たちも正面、左右と三手に分かれてじわりじわりと麗華との間を詰めてくる。
 「おや、何だそれは・・・? その胸んところにぶら下げてるのは。」
 「ありゃパンティだぜ、間違いなく・・・。ん? とすると、その下はノーパンか?」
 「最初からパンティを見せつけて、俺たちを欲情させて油断をさせるって魂胆かい?」
 「手を後ろに回して、何を隠してるんだ。見せてみろや。」
 麗華は男たちに背を向けないようにして対峙しているが、両手を背中から動かすことが出来ない。それを男たちは何かを背中に隠し持っているのだと勘違いした。男たちはまだ麗華が後ろ手に手錠を掛けられているのを知らないのだった。それだけに詰め寄り方は慎重だった。
 「それ以上近づいてきたら私も容赦しないわよ。」
 麗華の言葉に男たちも思わずビビッてしまう。
 「いつまでも俺たちを焦らせているんじゃねえぜ。まずはその胸のパンツをよこしな。」
 真ん中の男が麗華の胸元にぶら下がったショーツに手を伸ばそうとする。咄嗟に麗華は横に飛び退いてその手を避ける。しかし、それはそちら側に居たもう一人の男に不用意に近づいてしまうことになり、そちらの男に胸元のショーツの端を掴まれてしまう。

麗華

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