狙われた弓道部長　麗華

　十三

　「どうしたの。もう立ち上がることも出来ないって訳？　だらしないわね。」
　朱美は床から起き上がることが出来ない麗華の頭を足で踏みつけて更に傷めつけようとする。
　その時、道場の入り口がドンドンと叩かれる音がしてきた。
　「ここを開けなさい。貴方たち、そこで何をしているの？」
　女子弓道部顧問の五十嵐教諭の声だった。
　「朱美、まずいわ。先公の声よ。逃げなくっちゃ。」
　「吟子、悦子。あの空気抜きの窓から逃げるわよ。」
　朱美は吟子と悦子に声を掛けて、顧問の先生が外から叩いている鍵を掛けた入り口ではない以前、睦男が覗いていた空気抜きの小窓の方から道場を抜けることにする。そこは身を屈めて這いつくばればかろうじて抜け出せるほどの高さしかない。
　スケバンたちが空気抜きの小窓から抜け出そうとしているのを見て、下級生徒の部員の一人が内鍵を外しに入り口の扉に走る。美桜は倒れている麗華の方へ走り寄る。
　「先輩、大丈夫ですか。」
　「ああ、美桜さん。急いで私の袴を私に穿かせてちょうだい。自分では脚が動かせないの。」
　「あ、はいっ。」
　美桜が急いで麗華の脱がされて落ちていた袴を取ると、麗華の足元にあてがう。
　「あ、血が・・・。」
　麗華の白い太腿の内側には一筋の血が流れているのが分かった。
　「大丈夫。早く袴を履かせてちょうだい。」
　「は、はいっ。」
　「それから、先生にはここで何が起こったかは黙っていて頂戴。」
　「え、どうして？　あ、はい。わかりました。」
　美桜は脚が痺れて動かせないらしい麗華の下半身に何とか袴を着けさせる。そこへやっと内鍵が開けられて入ってきた顧問の五十嵐教諭が走り込んでくる。
　「真行寺さん、一体何があったの。さっき、弓道部員の子が職員室に弓道部が大変だって知らせに来てくれたのよ。」
　それは晶という朱美たちの助っ人が道場を出ていった際に、朱美達が麗華に気を取られている隙に逃げ出した弓道部員の知らせなのだった。
　「あ、五十嵐先生。何でもありません。私が練習中に貧血を起こして急に倒れ込んでしまったのです。」
　「まあ、貧血ですって。真行寺さん。いつもの貴方らしくもない。あ、それに床に血が・・・。」
　「先生、違うんです。私が生理になったのに気づかなくて・・・。貧血も多分そのせいだと思います。」
　「そうだったの・・・。とにかく皆んな。真行寺さんに手を貸して医務室まで運んであげて。」
　五十嵐顧問のおかげで麗華は数人の弓道部員らに肩を貸されて何とか医務室に運ばれたのだった。



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