蘭子呼出し

妄想小説

罠に嵌るチア女子 蘭子



 九

 蘭子が東高の不良女子たちに連れられてやってきたのは西湘高校と東雲学園のある場所から郊外の方へ向かって暫く歩いた先にある市立公園だった。普段は近くの小さな子供を持つ母親たちが幼児を遊ばせる為に連れてくる遊具などが幾つかある公園で、日中はこれら母親たちに連れられた子供の姿があちこちに散見されるが、夕方近くのこの時間帯は閑散として人の姿は見えない。公園の北側には小山ほどの築山があって細い螺旋状の小道が頂上へ向けてとぐろを巻くように続いている。その道が尽きる頂上あたりに一人の人影が見えた。


 「あそこよ。お嬢はあそこでアンタを待ってるわ。私達はこれで帰るわね。じゃあ。」
 蘭子を案内してきた不良少女たちは公園の入り口で蘭子を残して立ち去って行く。蘭子は大きく息を吸うと、決闘でもしにいくかのような覚悟で築山の頂上にいる真行寺虹子の元へ向かったのだった。

蘭子駆け付け

 「真行寺さんね。私に用があるってどういう事かしら。」
 築山の頂上に昇ってみると、広く公園が見渡せる。辺りには人の姿は見えず、虹子の手下等が潜んでいて蘭子を待ち伏せしている風もなかった。
 「麗子のこと? あの子、そっちのバスケ部の三浦君となら何でもないわよ。変ないいがかり、付けられただけなんだから。」
 「ふん、三浦か。」
 「三浦かって・・・。あなたのボーイフレンドなんでしょ?」
 「あいつはボーイフレンドみたいなんじゃないわ。みんながちやほやするもんだから、アタシが一番に奴を童貞から卒業させてやっただけ。それだけの仲よ。」
 虹子の口から(童貞から卒業)という言葉を聞いて、蘭子はどきっとする。
 (そういう仲なんだ・・・。)
 「ウチのバスケ部とそっちのバスケ部の最終試合、中止になるって聞いてるわよね、蘭子さん?」
 虹子のほうが突然切り出してきた。
 「え? ええ、さっき聞いたばかりよ。それが・・・?」
 「東雲学園って、私のおじいさんが経営してるって知ってるわよね。おじいさんは私の言うことなら何でも聞いてくれるのよ。」
 「え? それって・・・。」
 「そう。私が頼めば、西高との最終試合の中止、きっと撤回してくれるわ。」
 蘭子も虹子が真行寺財閥の一人娘で、その祖父というのが東雲学園を買い取って経営している真行寺善五郎であることぐらいは知っていた。善五郎は孫娘を溺愛していて、何でもいう事を聞いているという噂は前から流れていた。
 「あなたが理事長に話して試合の中止を撤回させることが出来るっていうの?」
 「そうよ。どう? 悪い話じゃないでしょ。」
 「ええ、それはそうだけど・・・。」
 「何にも条件無しに、私がそんな事してくれる筈がないって顔してるわね。ふふふ。あなたも馬鹿じゃないのね。そうよ。条件があるわ。」
 「じょ、条件って・・・。」
 「あなたが私と賭けをするのよ。今度のバスケの最終試合に東高と西高とどっちが勝つかをね。そりゃ、あなたは西高が勝つ方に賭けるでしょうけど。」
 「賭けって・・・。もし西高が敗けたら。」
 「ふふふ。西高が敗けたら、貴方たち西高のチア部は一日、私達の言うことを聞かなければならないの。貴方達・・・。そうね。貴方を含めたチア部の最前列メンバー、五人でいいわ。」
 「貴方達の言うことを聞くって・・・。いったい何を・・・。」
 「もう敗けた時の事を考えてるの。自信が無いのね。」
 「そ、そんな事ないわ。西高の今年のバスケ部は最強チームなのよ。敗ける筈がないわ。」
 「だったら、そんな心配なんかせずに賭けをするって言ったらどう?」
 「で、でも・・・。私だけならともかく、チア部のメンバー、五人共だなんて。私一人で決めれる話じゃないわ。」
 「あら、あなた。チア部の部長なんでしょ。あなたの言えば、みんなも応じるんじゃなくて?」
 「え、それは・・・。」
 「いい事。チャンスは一度だけよ。あなたが受けるって言えば私もおじいさんを必ず説得させてみせるわ。でも、嫌ならいいのよ。」
 「そ、そんな・・・。」
 蘭子はバスケ部キャプテンの裕也が試合が中止されて落胆している姿を思い浮かべていた。三年間頑張ってきた裕也のためにも、いやそれだけでなくそのチームを応援してきた自分たちチア部の為にも何としても最終試合は開催させてあげたかった。
 「さ、どうする?」
 虹子は戸惑う蘭子を前に不敵な笑みを浮かべて、蘭子の返事を待っているのだった。

 「ね、美桜。麗子。そして、そっちの二人も。ちょっとこっちに来て私のお願いを聞いてほしいの。」
 「なあに、蘭子。急にあらたまっちゃって。」
 西高チア部の精鋭メンバー五人が蘭子の傍に集まったのだった。
 「なあんだ。そう言う事? 断る訳ないじゃん。だって、裕也が率いる今年の西高バスケが敗ける訳ないじゃないの。蘭子だってそう思ってるからその話、受けたんでしょ。」
 「え、そ、そうだけど・・・。」
 「大丈夫よ。心配ないわ。絶対負けないから。いや、私たちの応援で絶対負けさせないわ。」
 「そうよ、蘭子。フレッ、フレッ、ニシコーっよ。最終試合、私達の手でやらせてあげましょうよ。」
 「そう? わかった。みんな、ありがとう。」
 「蘭子がお礼言うことじゃないわ。」
 蘭子は思い切ってチア部の精鋭メンバーに打ち明けてみて良かったと安堵の胸を撫でおろしたのだった。

蘭子

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