妄想小説
罠に嵌るチア女子 蘭子
二
藍川蘭子、桜井麗子、今泉美桜は共に、蘭子が部長を務める県立西湘高校、通称ニシ・コーのチアリーディング部の仲良し三人組だ。共に最終学年で今度のバスケ部での今季最終試合が三人にとっても最後の本番のチアリーディングになるのだった。このところ、毎日のようにその本番に向けてチアの練習に余念がないのだった。
「じゃ、わたしは英語の塾があるからこれで。」
いつもの仲良し三人組は部活終りの帰宅途中で塾へ行く麗子ととバスに乗る蘭子、美桜の二人にそれぞれ別れる。帰国子女である麗子は、得意の英語を生かして将来は通訳になるつもりでいる。その将来の為に今から英語塾で自分の語学に磨きをかけているのだった。
「じゃ、また明日の練習で。さよなら麗子。」
「さよなら、蘭子、美桜。」
二人と別れた麗子はひとり高校から街の中心へ向かう歩道を歩いていく。ちょうど目の前に小柄な老婆が怪しげな足取りで歩いていく。足が悪いのかちょっと危なっかし気だ。その老婆に向かって男子学生が三人真正面から近づいてくる。
(東高の男子生徒たちだわ。)
一瞬、麗子には嫌な予感がした。その予感が次の瞬間には的中してしまう。声高に談笑している三人組の男子学生の一人の肩が老婆に触れたのだ。途端に老婆はよろめいて歩道の上に転がり込んでしまう。
「あ、危ない。」
咄嗟に老婆に走り寄った麗子だった。
「ちょっと、あんなたち。ぶつかっておいて謝りもしないつもり。」
歩道にしゃがみこんでしまった老婆にの肩に手をやりながら、麗子は通り過ぎようとする男子生徒等に食って掛かる。
「え。何だよ。お前。西高の女子か。俺たちに因縁つけようってえのか?」
「貴方達がこのお婆さんにぶつかって転ばせたんでしょ。謝りなさいよ。」
麗子はムキになって男たちに掴みかからんばかりに立ちあがって大声を挙げる。元々引っ込み思案の麗子は男達に向かって声を挙げるなど考えられないことだった。それが男勝りの蘭子と一緒にチアリーディング部をやるようになってから、どんどん蘭子に感化されていたのだった。
「そっちの婆さんがぶつかって来たんだろうが。自分で勝手に転んでおいて文句つけてんじゃねえよ。」
「足が悪いお年寄りなんだから、道を譲ってあげるのが礼儀ってもんでしょ。」
「うっせえな。」
男の一人が麗子の肩をどんと突く。不意を喰らって麗子は転んでいる老婆のほうに倒れ込みそうになり、慌てて身を交わしたせいで自分自身までもが老婆の隣に無様に尻もちを撞いてしまう。麗子の制服の短いスカートが翻って、男たちに下着が覗いてしまう。
「へっ、純白のパンティかよ。」
「きゃっ、見ないで。」
慌ててスカートの裾を抑える麗子だったが、男たちに下着はばっちり覗かれてしまっていた。普段チアリーダーのコスチュームの際にアンスコを穿いているので、通学時の制服の下にはアンスコを着けない主義だった。それが災いしたとも言える。
「おい、お前たち。何してんだ。」
突然野太いドスの効いた声が男たちの背後からして、男達が振り返ると同じ制服を纏った背の高い一人の男が現れた。
「あ、三浦先輩だ。やべえ。おい、逃げるぞ。」
一人が掛け声をかけると三人共蜘蛛の子を散らすように慌てて走り去っていく。
三浦先輩と呼ばれた男は麗子の前に膝を屈めるとしゃがみこむ。
「おい、血が出てるぞ。ほら、膝を立てな。」
蘭子は歩道に転がり込んだ時に膝頭を突いて擦り剥いたらしかった。三浦は麗子の膝をそっと立てさせると、素早くポケットから白いハンカチを出して傷の上からきつく巻いてハンカチを縛り付ける。
「きゃっ。パンツ、覗こうとしたでしょ。」
実際麗子の膝を持ち上げた際に短い裾の奥から白いパンティが再び覗いてしまっていた。
「ちげーよ。ばーか。誰がお前のパンツなんか覗くか。ほらっ、立ちな。」
麗子の前に三浦はすくっと立上ると手を伸ばして麗子が立ちあがるのを手助けしてやる。
「あなた、東高バスケ部のキャプテンの三浦翔平でしょ。」
三浦に手を貸して貰いながら立上ると、麗子はスカートの埃を払いながら三浦を睨みつける。
「何で俺の名前を知ってんだ?」
「この間のウチのバスケ部との練習試合の時に見掛けたわ。」
「ああ、お前。西高のチア部だな。じゃ、婆さんの方は頼んだぜ。膝は早く消毒して貰っとくんだぜ。」
そういうと三浦翔平は踵を返して老婆と麗子の前から立ち去ってしまう。
「ふん、何よ。格好つけちゃって。キザな奴っ。」
二人に背を向けて歩き去る三浦の後ろ姿を見送ると、老婆に手を貸して立上らせる麗子だった。
その一部始終を道路の反対側からじっと捉えている女子高生達が居た。そのうちの一人は翔子写真でも撮るかのようにスマホを向けていたのだった。
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