妄想小説
罠に嵌るチア女子 蘭子
十
「ほら、沙季。あそこ。一番左の奴よ。権田睦男っていうの。」
「ええ、あれっ? まじ、ダサそう。」
「西高バスケ部で、一番モテない奴よ。」
「タイプじゃないわあ。」
「アンタがマジになってどうすんの。向こうはその気があるらしいわよ。ウチの下級生に探りを入れに行かせたら、アイツら仲間うちで話してる時に、アイツったらあんなに気があるらしい事を喋ってたそうよ。」
「へえ~っ。キモっ。」
「いい事。これは芝居なんだからね。きっちり気がある振り、すんのよ。」
「わかってるわよ、お嬢。あんなの騙すの、チョロいもんよ。野球部の奴等に喫煙そそのかすのよりずっと簡単だわ。」
「アンタのほうからコクるの。絶対アイツ、引っ掛かるから。」
「そうね。愉しみだわ。」
西高、東高を隔てる茂みの陰からグランドで柔軟体操をしている西高バスケ部の男たちを観察しながら作戦を立てているのは、虹子とその取り巻きの不良女子たちなのだった。
「ねえ、アンタ。もしかして権田睦男っていうの?」
突然、東高の女子たちに声を掛けられた睦男は通り過ぎようとして自分の名が呼ばれたことにどぎまぎしながら振向いたのだった。
「ご、権田・・・だけど。何か用かい?」
「これ、渡して欲しいって頼まれたの。」
そういって、睦男に女の一人が手渡したのは小さく折り畳まれた紙切れだった。
東高の知らない女子から手渡された紙切れに書かれてあったことを何度も何度も頭の中で繰り返し、半信半疑の思いを捨てきれないのに心ばかりが逸る気持ちを抑えきれずに指定された体育館の裏手へ急いでしまう睦男だった。
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