妄想小説
罠に嵌るチア女子 蘭子
十四
またしても睦男がボールを逸らした。それを巧みにカットした東高のひとりがすかさずキャプテンにパスを繋ぐ。それを受け取った三浦は難なくゴール下に走り込んでポイントを決めた。
「西高62、東高61。」
やはり睦男の視線が沙季の身体を捉えた瞬間、沙季がスカートの裾を持ち上げたのだ。
(駄目だ。ボールに集中しなくちゃ。見ちゃ駄目だ。)
そう自分に言い聞かせている睦男だったが、沙季の様子が気になって仕方がない。わざと沙季の居る方を向かないようにプレイを続けていると、余計に沙季の事が気になってしまう。気のせいだ、普通にしてる筈だと思いながらも、沙季の様子が気に掛かってチラッと見てしまうと、そんな時に限って素早いパスが睦男に投げ込まれてくるのだった。
「西高74、東高75。」
「タイムっ。」
堪らず裕也が声を挙げたのは試合中初めて東高にリードを奪われた時だった。
「どうした、睦男。今日、お前、おかしいぞ。」
「や、何でもない。ちょっと気持ちが焦ってしまっただけだ。」
「裕也。睦男をちょっと交替させたほうがいいんじゃないか?」
「いや、もう残り時間が少ない。最後まで三年のベストメンバーで行く。いいな。」
「おおっ。」
しかしその裕也の采配は裏目に出た。睦男のミスは続き、リードを引っ繰り返されたばかりかその差が少しずつ開き始めたのだ。
「西高79、東高83。」
「ね、蘭子。裕也たち、大丈夫かしら。」
「大丈夫よ。大丈夫に決まってるわ。さ、しっかり応援しましょう。フレー、フレーっ、ニ・シ・コー。フレッ、フレッ、ユウヤ―っ。」
東高チア部の応援席の裏側でひとり虹子がほくそ笑んでいた。
(沙季っ、いいわよ。いいタイミングで気を惹いてるわ。そろそろ時間ね。)
虹子は傍らのインカムを取り上げる。そのインカムは審判をやっている生徒会長の東尾へと繋がっているのだ。
「西高97、東高98。」
「時間よ。ホイッスルを吹いてっ。」
インカムから流れてきた虹子の声に東尾は反対側のタイムキーパー席の大きな時計を確認する。
「おい、裕也っ。やばいぞ。時間が無い。」
「睦男、ボールをこっちへ回せっ。」
「東尾っ、吹くのよ。ホイッスルを。」
西高は一点のビハインドだった。裕也は最後の一投に賭けた。自陣のゴール下から裕也の手を離れたボールが大きな孤を描いて体育館を横切って宙を飛ぶのとホイッスルが鋭い音を響かせたのはほぼ同時だった。の一瞬後に東高側ゴールのチェーンがズボッと音を立てて中に裕也が放ったボールが吸いこまれていった。
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