体育館裏

妄想小説

罠に嵌るチア女子 蘭子



 十一

 体育館の裏手の生垣の茂みとの間の狭い路地に折れた時に、その先に後姿の東高女子の制服姿を見つけた睦男は心臓が高鳴るのを憶えた。
 「さ・・・、沙季・・・さん?」
 思わず声がひっくり返りそうになりながら、やっとの事でそう口にした睦男だった。声を掛けられた少女は恥ずかしそうに下を俯きながら睦男のほうへ振り返る。
 「ご、ごめんなさい。呼び出したりなんかして・・・。わたしの・・・事なんて、知らないわよね。」
 「え、チア部の河田さんだよね。し、知ってるよ。」
 「え? 嘘・・・。わたし、目立たない女子だって、自分でもわかってるもの。」
 「目立たない? そんな事ないよ。」
 (俺は、何時だって君の事を遠くから見てたんだから。)
 そう口から出そうになった言葉を睦男は呑み込んだ。
 「わたし・・・なんかじゃ嫌よね、きっと。」
 「え? 嫌だなんて。」
 「わたし、虹子とかみたいに華やかじゃないし、積極的にもなれないし・・・。でも・・・、でも、一度だけでも告白したかったの。」
 「こ、告白・・・?」
 睦男は今度は生唾を呑み込む。
 (これは夢じゃないんだよな・・・。)
 「こ、こっちこそ・・・。お、俺なんかで・・・、俺なんかでいいのかい、本当に。」
 睦男が勇気を振り絞って出した言葉に、初めて少女は上目使いに視線を合わせた。
 「好きなの・・・。あなたが。」
 少女は両手を睦男の手に伸ばしてきた。温かい体温が拳を握った睦男の手に感じられる。そして温かく包み込まれた睦男の拳が少女の身体に引き寄せられる。スカートの襞を通して少女の柔らかな下腹部が睦男の手の甲に感じられた。
 少女が睦男のほうへ一歩あゆみよる。今度は睦男の手を包み込んだ少女の両手の甲が睦男の下腹部にやさしく触れた。

童貞誘惑

 「うっ・・・。」
 睦男は勃起しているのに気づいていた。そしてその事を感づかれたのではと、少女の眼元を確かめる。しかしその眼は驚いている風はなかった。
 少女が放つ甘い香りが睦男の心をくすぐる。既に睦男の心臓はバクバクと高く波打っていた。握られていないもう片方の腕で少女の肩を抱いてしまおうか迷いにまよっていた。
 「あ、あの・・・。」
 睦男が手を挙げ掛けた時、少女が再び口を開いた。
 「今度のバスケの試合が終わったら、もう一度二人だけで逢ってくれる?」
 「あ、逢う・・・って。も、もちろんだとも。」
 少女の唇が微かに震えて動いたのを睦男も間近に見て感じ取っていた。
 「その時に・・・。」
 少女は最後まで言わなかった。しかし、睦男には何を言おうとしたのかが判った気がした。それだけ言い切ると、少女はさっと握りしめていた睦男の手を離し、くるりと踵を返して走り去っていく。やっと言い切った告白の恥ずかしさを隠そうとするかのように・・・、睦男にはそう感じられたのだった。

蘭子

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