妄想小説
罠に嵌るチア女子 蘭子
十五
「西高99、東高98。ゲームオーバーっ。」
「やった。ブザービートだわ。」
「え? ブザービートって何?」
「何言ってるのよ。試合終了の瞬間に放たれたボールがゴールを決めることよ。そんな事も知らないの?」
「え? それってつまり、逆転?」
「そうよ。西高が勝ったのよ。一点差で。」
応援する西高側は大きく沸いていた。蘭子と麗子、美桜は手を取り合って歓声を挙げていた。
まさかの奇跡的逆転に沸いている西高応援団をよそに、つかつかと審判席に歩みよった者が居た。東高のチア部部長という立場の裏で東高女番長を張る真行寺虹子だった。
「いまのはブザービートなんかじゃないわ。西高のキャプテンが放った最後のシュートはホイッスルが鳴った後に放たれたものよ。ビデオ判定を要請します。」
「え? ビデオ判定って・・・?」
「あそこで東高放送部が試合の模様をずっとビデオカメラで撮っているわ。最後のシュートシーンを見直して頂戴。」
虹子の権幕に審判長の生徒会長、東尾は他のレフリー達と顔を見合わせる。
「ちょ、ちょっと西高のバスケ顧問の先生。こっちへ来て一緒にビデオを観てくれませんか。」
仲間と手を取り合っていた蘭子も、何やら審判団席でひとだかりが出来始めているのに気づいていた。
「何かしら、あの騒ぎ?」
「何をごちゃごちゃやってるのかしら。あれ、ビデオカメラじゃなくって? 何かイアホンで聴きながら観てるわ。」
審判団席での騒ぎがひと段落したらしいところで、審判長の生徒会長がマイクを採った。
「えーっ、今の試合の決着について報告します。西高からの最後のシュートが決まって得点係が99対98で西高の勝ちを宣言しましたが、ビデオ判定の要請があり最後のシュートシーンを観返し協議しましたところ、最後のシュートはホイッスルが吹かれた後に放たれたものであることが判り、無効と判断いたします。従って試合は97対98で東高の勝ちとなります。」
体育館のスピーカーから響き渡った生徒会長の声は東高と西高のそれぞれの応援チームに別々のどよめきを与えた。
「何ですって? そんなバカな・・・。」
「西高が敗けた・・・ですって? 信じられない。」
突然の出来事に茫然とする蘭子たち西高チア部をよそに、ほくそ笑んでいるのは東高チア部、とりわけ部長の虹子なのだった。
まだ試合の結果が信じられない蘭子たち仲良し三人組はもう二人の下級生たちと組んでいるチア部精鋭メンバーの五人ですごすごと西高の方へ引き上げようとしていた。
その前をはだかるように並んで道を塞いだのは虹子を中心とする東高きっての不良グループとも言えるチア部の連中だった。
「ちょっとアンタたち、このまま只で帰れるなんて思ってるんじゃないでしょうね。」
虹子の隣に偉そうに立って口を利いてきたのは親衛隊長を自ら買って出ている河田沙季だった。その声にはっと顔を挙げたのは蘭子だった。
「賭けに負けたら私達の言う事、何でも聞く約束だったわね。」
「そ、それは・・・。」
美桜は麗子と顔を見合わせる。まさか、そんな事態が起こることなど想像もしなかったからだ。
「さ、わたしたちについてくるのよ。体育館に戻るわよ。」
「ど、どうしよう・・・。蘭子?」
「美桜・・・。わたしたち、賭けに負けたのよ。」
力なく肩を落としながら蘭子は答えたのだった。

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