裕也

妄想小説

罠に嵌るチア女子 蘭子



 八

 (裕也はどうしてるだろ・・・。裕也はくさってるかもしれない。いや、くさってるどころの騒ぎではない筈だ。裕也は今度の最終試合に命を賭けているといってもおかしくないわ。)
 そしてそれは蘭子にとっても同じ事だった。

 蘭子と裕也は幼馴染だ。ずっとこの街で一緒に育ってきた。それだけにお互いの事は他の誰よりも理解しあっている。
 同じ西湘高校に進学した時すぐに、蘭子はそれまで西湘高校になかったチア部を立ち上げることにした。勿論、中学からやっている裕也が入る男子バスケ部を応援する為だ。以来三年間、蘭子が率いるチア部はずっと裕也のバスケ部を応援してきた。勿論学内公認のチア部なので、バスケ部だけを応援する訳ではない。しかし、蘭子のバスケ部に対する応援の気合いの入れ方は他の部に対するものの比ではなかった。三年になって裕也がキャプテンを務めるようになったバスケ部は負け知らずの勝ちっぷりだった。今度の東高バスケ部との試合に勝てば、完全制覇でこのシーズンを飾ることが出来るのだ。その裕也たちのバスケ部を勝たせる為に、蘭子たちの応援も半端ないものになっていたのだ。
 「ねえ、何だってまたあの野球部の連中、煙草なんか部室で喫ったのかしら。あの不良グループの東高の連中だというのならまだしも。」
 「ああ、それなら何でも野球部の連中、東高の女子に唆されたらしいって噂よ。あの連中、バスケ部なんかと違ってモテないから女の子に免疫がないのよ。最終試合が終わって気が抜けてるところに東高の女の子に言い寄られていい気になっていたみたい。」
 「ったく、しょうがないわね。東高の女子もよりによって野球部の童貞たちに目を付けるなんて。言い寄るだけならまだしも、煙草を薦めるなんてサイテーね。」
 「ね。どうする、蘭子?」
 「どうするってもねえ・・・。」
 そう思いながらも、何とかしなければと考え始める蘭子だった。

 チア部が怖れていた通り、その日の職員会議で当面の運動部の外部試合は全て中止されることが言い渡された。それにはすぐ隣の東雲学園理事会からの強い抗議があったことを蘭子たちは知らなかった。勿論理事会と言っても、理事長である真行寺善五郎の指図によるものに他ならない。
 取りあえずその日はチア部も練習は中止することになって、いつもよりは少し早い帰宅になって校門を出たチア部の仲良し三人組の前に現れたのは東高の女子たちだった。
 「アンタ、西湘チア部の部長の藍川蘭子よね。ちょっと顔を貸して貰いたいの。」
 突然現れた東高の不良女子グループだっただけに、三人は顔を見合わせて眉を曇らせる。
 「この間の麗子の事だったら、もう片が付いた筈でしょ。なだ何か言い掛かりを付けるつもり?」
 美桜が蘭子に代わって強がって見せる。
 「違うわよ。そんなんじゃないわ。ウチのお嬢がアンタに用があるって言うのよ。一緒に来て頂戴。」
 「私に? お嬢って、真行寺虹子の事ね。私に何の用だって言うの?」
 「さあね。そこまでは知らないわ。私達はただ連れてきて欲しいって言われただけ。アンタ、ひとりだけよ。」
 「どうする、蘭子? 何か罠かもしれない。」
 「何言ってんのよ。こいつに逢うのはお嬢ひとりだけよ。私達はお嬢のところへ案内するだけよ。」
 「さあ、どうだか。やめておいたほうがいいわよ、蘭子。」
 「待って、美桜。いいわ。私、行ってくる。私の事なら大丈夫だから。あなたたち、先に帰っていて。」
 美桜と麗子を先に帰した蘭子は、東高の不良女子たちに不安を抱きながらも付いていったのだった。

蘭子

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