妄想小説
罠に嵌るチア女子 蘭子
十三
「フレー、フレー、ニ・シ・コーッ。」
「フレー、フレー、ヒッ、ガッ、シーッテ。」
西高、東高それぞれのチア部による試合前のエールの黄色い声が体育館に響き渡る。蘭子が率いる西高チア部は殆どが三年生による精鋭チームでかなりの気合いが入っている。それに引きかえ東高チア部は真行寺虹子を部長として西高チア部に対抗して集められていはいるものの、虹子たち三年生は練習も殆どやっていないばかりか、本番でも主に一年生を駆り集めて作られた低学年生たちに無理やりやらせているだけで上級生たちは後ろのベンチにふんぞり返っているだけなので応援は形ばかりと言ってよかった。
お互いのエール交換がひと通り終わると、試合開始のホイッスルが吹き鳴らされ、いよいよ西高、東高対抗の今シーズン最終試合が開始されたのだった。
大方の予想どおり、試合は一方的に西高のリードのうちに展開されたが、東高バスケ部もキャプテン、三浦の好プレイもあってかなり善戦しているともいえた。東高が三浦の個人プレイに頼りがちなのに比べ、西高はキャプテン、氷川裕也の指導によるチーム連携プレイが功を奏して東高が追付きそうになる度に引き離してを繰り返しての攻防戦だった。そんな一方的な試合運びが崩れかけたのはそろそろ試合が終盤にさしかかってきた頃だった。
試合開始前から睦男は、前日手紙を寄こして声を掛けてきた紗枝がいつものチアリーダーのコスチュームではなく、仲間から離れて制服姿で立っているのに気づいていた。その意味するものは、彼女が試合が終わるや皆とは別れて自分に二人きりで逢う為なのだろうと勝手に思い込んでいた。睦男の期待は否が応でも高鳴るのだった。
裕也が決めた必殺の得点連携プレーは、自分たちチームがボールを奪った瞬間に睦男はリンク中央部に走ってパスを受け、それを絶妙なタイミングでポイントゲッターの氷川にパスを通し、氷川にゴールさせるというものだった。東高バスケチームもそれが判っているのに、西高の連携プレーのスピードに付いてゆけず、易々とゴールを許してしまうのだった。
「西高53、東高48。」
審判団の得点係がスピーカーを通して得点を告げる。
睦男自身もこのアシストプレーに酔っているところがあった。紗枝の前でどうしてもいいところを見せ付けたかったのだ。それが狂ったのは睦男が仲間からパスを受ける一瞬前にチラッと紗枝の姿が目に入った時、沙季の穿いている短いスカートの裾がスッと捲り上げられたからだった。それに気づいたのはチラっ、チラッとその姿を気にしていた睦男ただ一人だった。
仲間が寄こした速いスピードのボールが睦男の顔面にぶち当たった。リバウンドを取り上げた東高の一人が素早くボールを拾い上げると三浦にパスし、パスされた三浦は見事なスリーポイントを決めた。
「西高53、東高51。」
「おい、睦男。何してんだ。よそ見してんじゃないぞ。試合中だ。ボールに集中しろっ。」
キャプテンの裕也が檄を飛ばす。
「や、悪い、悪い。ちょっと、眼にゴミが入って・・・。」
眼を擦る振りをしながら睦男は言い訳をした。
「ドンマイ、ドンマイ。気合い入れていくぞっ。」
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