妄想小説
罠に嵌るチア女子 蘭子
三十
バシーンという突然の音と共に体育館の全照明が落とされ、あたりは真っ暗闇になったのだ。
「きゃっ、何?」
「麗子、暗くてもしっかり受け止めるのよ。」
「わかった。」
蘭子の身体が自分達の元へ落ちてくるのと体育館の照明が点いたのが同時だった。
「あーっ。」という歓声ともため息ともつかないものが会場じゅうを流れた。
蘭子、美桜、麗子を始めとした五人の西高チア部の精鋭メンバーが最後の決めポーズを採ると、大きな歓声と拍手が沸き起こったのだった。
その遥か後方で舌打ちをしていたのは虹子唯一人だった。
「何なの。誰なのよ、一番大事な瞬間に照明を落とした奴は。」
憤懣やるかたない面持ちで周りを睨みつけている虹子だった。その時、舞台袖の照明室からこっそり抜け出たのが三浦翔平の合図で電源を落とした蛭田好男だったことに、虹子も気づいていないのだった。
「終わったわね。危なかったわ。まさか照明が突然落ちるなんて思っても見なかったから。」
「わたしは信じていたわ。暗闇になってもきっと私を受け止めてくれるって。」
「そりゃそうよ。あれで蘭子を落としたりしたらいい恥さらしだわ。何があっても息を乱さないのがわたしたち精鋭メンバーでしょ。」
「ねえ、蘭子。ちょっと・・・。」
美桜が言いにくそうに声を潜めて蘭子を引っ張って耳打ちする。
「蘭子。受け止める時、ちょっとスコートの中のお尻に触れたんだけど、あんたスコートの下、何も穿いてなかったでしょ。もしかして虹子に命令されたの?」
「ううん・・・。」
蘭子は曖昧に返事をする。スコートの下がノーパンはおろか、あの部分の茂みまで剃り落させられていたなど白状出来る筈もなかった。
「もしあの時、照明が落ちてなかったら大変な事になってたわよ。どうするつもりだったの?」
「いいじゃない。もう、終わったんだし。」
蘭子が思いの外けろっとしていることに美桜は唖然としたのだった。
「よくやったぞ、好男。タイミングはばっちりだった。」
「ありがとうございます。三浦先輩の合図のおかげです。俺は言われたとおりにしただけなんで。でも、本当に蘭子はノーパンであの演技をやったんですか?」
「さあね。俺も見てないからさ。でも、蘭子は知らないかもしれないけど知ったらきっとお前に感謝したと思うぜ。」
「俺、蘭子に小便を呑ませようなんてした事、本当に後悔してたんです。だから先輩から蘭子を救ってやれって言われた時に本当に嬉しかったんです。蘭子さんは知らなくてもいいです。俺だけが知っていれば。」
「そうだな。ただ虹子にだけはばれないように注意しろよ。」
「わかってますって。」
三浦翔平と蛭田好男のそんな会話が虹子の耳に入る筈もなかった。
(このままじゃ済まさないからね。誰が邪魔したか知らないけど蘭子には必ず落とし前付けさせるんだからね。)
事の顛末に、鬼のような形相をしている事を虹子自身は気づいていないのだった。
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