悪夢の前夜祭
第一部
九
「ねえ、本当に高野さんなの。その男たちに連れ去られたのは。」
「ええ、そうなんです。私達が三人で話をしてたら突然男たちに取り囲まれて。高野さんが一人で、男たちに立ちはだかって私達に逃げろっていうから、必死で私達逃げたんです。高野さんたら、勇敢に男たちに立ち向かって・・・。逃げる時、ちらっと振り向いたら男の一人が高野さんを羽交い絞めにしてて、もう一人が何度も高野さんに正拳突きを当ててて、ぐったりしたところをプールの方へ引き立てていったんです。誰かに知らせなくちゃって必死で走ってきたんです。」
「わかったわ。私が取り敢えず何とかするから、誰か探して呼んできて頂戴。急いでっ。」
「はいっ。わかりました。」
それだけ言うと水泳部顧問の宮崎久美子教諭は踵を返して一人プールの方へ走っていく。
(恭子さんたら。本当に男勝りなんだから。幾ら他の女子生徒を救う為だからって男たち数人に一人で立ち向かうだなんて・・・。)
久美子は間に合えばいいがと思いながらプールへ向かってひた走りに向かうのだった。
宮崎久美子がプールサイドに到着したときには、プールの周りには誰の姿も見当たらなかった。しかし女子更衣室の扉が開いているのが遠目に見て取れた。
(あそこかしら・・・。)
嫌な予感にかられながらも足早に扉の開いた女子更衣室へ近寄る。薄暗い更衣室の中にはひと気が無いように思われた。が、奥の方の床に何やら蹲っているように見えた。はっと気づいて更衣室入り口の電灯のスイッチを入れてみて、久美子は凍り付く。蹲っているように見えたのは、自分の教え子、高野恭子が水着姿で両手を後ろ手に縛られ俯せになっているのだった。両脚は開かされてデッキブラシの柄に足首で括り付けられている。
(何て事・・・。)
慌てて走り寄ろうとして何かに足を取られて思いっきり前につんのめってしまう。
「え、何?」
薄暗くて気づかなかったが床から10cmぐらいの高さに針金のようなものが張られていたのだった。そこに足を取られて転んでしまったのだ。
「先生、大丈夫ですか?」
後から更衣室に駆けつけてきたらしい隣の東高の女子生徒らしいと気づいた久美子は思いっきり打ってしまった膝の痛みをさすりながら起き上がろうとしたのだが、その首筋に駆け寄ってきた少女の持つスタンガンが押し当てられたのだった。
バチバチバチバチッ。
一瞬のうちに宮崎久美子も悶絶してしまう。
「さ、こいつは運ぶのは大変だから取り敢えず逃げ出せないようにブラウスとスカートは剥ぎ取って下着だけにして縛っておくのよ。縄はその水道管の上の方に繋ぎ留めておけばいいわ。」
「了解。この水泳部キャプテンはどうする? そろそろ目を覚ます頃かも。」
「そうね。こいつも逃げ出せないように足首を繋いだモップを同じように水道管の上の方に繋いでしまえばいいわ。」
「それなら逃げようがないわね。」
「悦子。これで主な出演者は全て捕縛したから、いよいよ開幕の前の最終仕上げよ。」
「えっ、開幕前の最終仕上げ? これから何をするの?」
「ふふふ。私達が訴えられないようにする為の小細工よ。まずは生徒会室に戻りましょ。」
そう言うと朱美は悦子を伴って水野美保を吊るした生徒会室へ戻っていく。
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