水泳部顧問気絶中

悪夢の前夜祭


 第一部



 十三

 プールサイドの女子更衣室で先に正気に返ったのは水泳部キャプテンの高野恭子の方だった。朦朧としている中から意識が次第に戻ってくると背中で合わせている両手が自由に動かせない。すぐに縛られているのだと気づいた。そして足首までもが何かに繋がれて身動き出来ないことに気づく。苦しい恰好で身体をエビぞりにさせて背後を何とかみると、自分の足首がデッキブラシの両端に繋がれていて、そのデッキブラシ毎、縄で吊り上げられていることが分かった。そればかりか首を持ち上げてみると水泳部顧問の宮崎先生までが下着姿で前方に吊られて気絶しているのがかろうじて見えるのだった。
 思わず声を挙げようとして自分の口に猿轡が咬まされていて声が出せないことに気づく。前方で吊られている顧問の口にも猿轡のようなものが咬まされている様子だった。
 (宮崎先生っ・・・。)
 恭子は心のうちで叫んでみるが、声にはならない。
 その時、ガラッと音がして更衣室の扉が開けられたようだった。自由にならない身体のまま、首を仰け反らせるようにして音のしたほうを振り向いた恭子の目に見覚えのある二人の顔が映った。
 (あれは、確か・・・。そうだ。あの二人に騙されて着替えさせられている間に何かされたのだ。自分を縛ったのもあの二人に違いないのだわ。だとすると、顧問の宮崎先生も・・・。)
 「あら、気がついたようね。」
 「ううっ、うう、ううっ・・・。」
 口に咬まされた猿轡から何とか声を出そうとする恭子だったが呻き声にしかならない。
 「ふふふ。何か言いたいことがありそうね。今、猿轡を外してあげるわ。但し喚くようなことしたら、この先生が辛い目に遭うわよ。いい?」
 そう言われた恭子ははっとして頭上の宮崎先生のほうを見上げる。顧問の先生はまだ正気には戻っていない様子だった。恭子はわかったとばかりにゆっくり首を縦に振る。朱美が近寄ってきて恭子の猿轡を外すのだった。
 「ぷふっ。ううっ。」
 カラカラの喉に恭子は一度生唾を呑み込む。
 「あ、貴方達・・・。何が目的なの。私たちをこんな目に遭わせてっ。」
 「ふふふ。そのうち分かるわ。貴方は今夜の前夜祭の生贄なの。」
 「生贄ですって? 一体、何をしようって言うの?」
 「まあ、いいから。アンタは水泳競技者らしく、アンタに似合いのプールサイドまで移動して貰うわ。と言っても、自分では歩けないでしょうから今、立ち上がらせてあげるわ。悦子。アンタも手伝って。」
 朱美は悦子と二人掛かりで恭子の両肘に腕を回して恭子を起き上がらせる。恭子は自分では立ち上がることさえ出来ないのだった。
 「さ、一歩ずつなら前へ進めるでしょ。プールの脇まで歩くのよ。」
 二人に手を取られて恭子は更衣室から外に連れ出される。文字通り、デッキブラシに両脚を開いて繋がれたままでは一歩ずつ摺り足で歩くのがやっとだった。
 「さ、この辺でいいわ。悦子、目隠し。」
 朱美は再び悦子に目隠しの布を渡すように要求する。渡された布で身動き出来ない恭子の視界を奪ってしまうと、悦子に辛子を塗りたくったフランクフルトを用意させるのだった。

高野恭子顔

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