悪夢の前夜祭
第一部
八
「え、それじゃ玲子さんは男たちに拉致されていったっていうの?」
「そうなんです。私達、かろうじて逃げてきたんですけど玲子さんは彼らに捕まっちゃって・・・。」
「で、玲子さんと彼らは?」
「多分、まだテニス部の部室じゃないかしら。」
「すぐ助けに行かなくちゃ。貴方たちもついてきて。」
「わ、わかりました。でも、怖いから後ろからでいいですか?」
「いいわ。私が先頭に立っていくから。後からついてきて、もし何かあったら助けを呼びにいって。」
「わかりました。如月先生。」
「じゃ、行くわよ。」
そう言うと、如月美月は後からついて来る二人の東高生徒の方を見向きもしないで、テニス部部室のほうへ走っていったのだった。
「玲子さん! 早乙女さ~ん! そこに居るの?」
部室の扉を開け放つや中に飛び込んだ美月は、部室に誰の姿も見当たらないのに呆然とする。
「玲子さん、一体何処に・・・。」
その時、部室の奥のロッカーでガタンと物音がするのに気づいた美月は、おそるおそるそのロッカーに近づいていく。
「玲子さん?」
声を掛ける美月に返事は返って来ないが、ガタゴトとロッカーの中から音が続いて聞こえてくる。慌ててロッカーの扉を開いた美月はその中に見たものにはっと息を呑む。ロッカーの中には閉じ込められたらしい早乙女玲子の姿があったのだ。しかも両手を後ろ手に縛られた上に雁字搦めに体中を縄で括られている。縛られた縄の下でスコートが捲り上げられていて、下に穿いているアンダースコートではないショーツが丸見えになっている。声が出せないように口にはガムテープまで貼り付けられているのだった。
「何て恰好なの。今、解いてあげるから。」
慌てて走り寄る美月に、玲子は声にならない呻き声で(うう、ううっ)と訴えている。玲子の惨状を目の当たりにした美月は、早く自由にして欲しいのだと訴えているのだと思い込み、何重にも結び目を施された縄を何とか解こうと必死になるのだが、玲子は美月の背後に迫ってくる東高の女生徒が手にしているスタンガンの事を顧問の先生に教えようとしているのだとは気づかないのだった。
「待っててね。すぐに解いてあげるから。」
玲子の縄を解くことに必死になっている美月に背後で何が起ころうとしているのか気づく余裕はなくなっていたのだった。
バチバチバチバチッ。
朱美等二人に、玲子の事で必死になって無防備な背中を向けている如月先生にスタンガンを当てて気絶させるのは訳のないことだった。
スタンガンの一撃で目の前で崩れ落ちた如月美月の哀れな姿を目の当たりにして玲子は救われる希望が失われたのを悟った。自分を救いに来た筈の如月先生が自分を囮にした罠に引っ掛かり、まんまと気絶させられ両手を縛りあげられて自由を奪われていくのを、自分自身も縛られ何もすることが出来ないもどかしさに只々見守る他はないのだった。
「さ、お前は違う場所が本番の舞台なんだから、そこまでは歩いて貰うよ。」
かろうじて歩けるように足首の縄だけを解かれた玲子が女達に小突かれるようにしながら縛られて繋がれた如月先生を放置したままテニスコートのある校舎の裏の方へ向かわされたのだった。
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