妄想小説
恥辱秘書
第六章 二人の葬儀
一
いつも朝一番に出社して、最初の仕事として新聞を広げている芳賀は、ひとつの記事に目を見張った。それほど大きな記事ではなかったが、ショッキングな出来事が報じられていた。
飛行機事故で、乗客、乗務員含め、全員が絶望との報道だった。芳賀の目を引いたのは、外国籍の航空会社だが、パイロットの二人が日本人であること。そしてその航空会社が芳賀の知っている会社だったからだ。言わずとしれた深堀美紀の夫、そして診療所の看護婦、田代晴江の恋人が勤めている会社だ。
日本人クルーはあまり多く居るような会社ではない。従って、ニュースもあまり大きくは報道されていない。芳賀は今度はインターネットを駆使して更に詳細のニュースを集め始めた。そして遂にその事故の操縦士、副操縦士がそれぞれ美紀の夫と晴江の恋人に間違いないことを突き止めたのだった。
その日のうちに深堀が急遽、1週間の休みを取ると言ってきていることが芳賀の耳に入る。診療所にもそれとなく問い合わせると、当分の間、晴江は休みを取ると言っているらしいことを突き止める。芳賀にとって、これは危機でもあり、千載一隅のチャンスでもあると思っていた。
深堀は自分の結婚相手のことを会社内の誰にも言っていないし、従って会社に届けもしていなかった。共働きでもあり、配偶者控除や家族手当、健康保険なども一切関係ないので敢えて届けを出していなかったのだろう。しかし、芳賀は全てを美紀に白状させていたので、夫の家族関係のみならず、夫婦生活のあり方まで、すべてを把握していた。
一方の田代晴江のほうは、ただ単に恋人であるというだけで、本人同士の直接的な関係でしかない。内縁の妻という関係ですらないので、忌引きという訳にはいかないのだろう。
事故のほうは、たまたま乗客に日本人が居なかったせいもあって、その後は殆どニュースらしいニュースには取り上げられることはなかった。会社内でも美紀や晴江がどんな理由で休んでいるのかは、芳賀の他には殆ど知るものはなかった。
事故から数日が過ぎ、遺骨が日本に戻ってきたらしいことが芳賀の情報網に入ってくる。遺骨といっても、空中での事故であり、回収されたものも殆どなく遺品が数点あるのみらしかった。
最初に連絡が取れたのは、美紀のほうだった。芳賀は美紀の携帯番号を知っている。事故後、暫くは全く通じなかったのだが、事故から5日目に漸く電話繋がった。美紀は夫、和義の郷里である四国の宇和島に居た。宇和島にはかなり高齢の和義の両親が居て、通夜が昨夜終ったばかりとのことだった。芳賀は、美紀に、結婚届は出ていないので公式ではないが、一応会社代表として葬儀に出る旨を伝えた。勿論、美紀は固辞したのだが、芳賀は有無を言わせなかった。
会社には美紀の身内に不幸があったとだけ伝え、密葬なので、芳賀独りだけが参列すると言ってあった。芳賀は急遽、四国行きの飛行機で宇和島を目指した。
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