葬儀12

妄想小説

恥辱秘書






第六章 二人の葬儀


 九

 一方の晴江のほうは、恋人の形見の遺物が実家に届いたという報せを聞いて、恋人の田舎である長野の山奥の実家へ独り向かったのだった。しかし、恋人の家族からは、受け入れてもらえず、冷たく突き返されたのだった。まるで独り息子の事故の原因が晴江にあるかのような言われ方をした。
 晴江は泣く泣く自分のアパートに戻るしかなかった。二日間アパートに籠って泣いて過ごした。が、仕方なく、三日目には勤めに戻ってきた。

 「ねえ、いつまでも塞ぎ込んでいても駄目よ。もう、過ぎてしまった過去の人と、きっぱり諦めたほうがいいわよ。そうそう、今日、合コンやるんだけど、貴方も出てみないこと。新しい出逢いが見つかるかもよ。」
 同僚の仲間の坂田秀代だった。晴江よりふたつ年上だが、この診療所を取り仕切っている。
 元気がなく落ち込んでいる晴江に、秀代は多少の事情を知っていたので、慰める為に、合コンに誘ったのだった。気の進まない晴江だったが、気が紛らすほうがいいと仕切りに薦める秀代たちの言葉に押されて、つい出ることにしてしまった晴江だった。

 合コン会場は、繁華街のほうへ出たところにあるホテルの最上階のレストランだった。晴江たち看護婦四人に対して、男も四人が誘われてきていた。一番若く、一番可愛らしい顔立ちの晴江に男達は色めき立った。
 「いやあ、可愛らしいねえ。こんな看護婦さんに、浣腸しますぅとか言われちゃって、お尻を出したりしたら、勃起しちゃいそう。」
 場を盛り上げることしか考えていない一番軽薄そうな不細工な子男が、下品な話題でまわりの顰蹙を買っていた。
 晴江の隣には、ここでも仕切りを務めている秀代が気を利かせて、一番男前の青年を座らせるように仕向けていた。

 パイロットの彼氏が出来て以来、合コンにはずっと縁の無かった晴江だった。勿論、誘いはあったのだが、嫉妬深い彼氏に発覚すると、どんなお仕置きを受けるか知れず怖かったのだ。一度、会社内の敷地で行われる納涼祭に同僚仲間と浴衣で出掛け、その二次会に数人の男女で街に繰り出したところを運悪く見つかってしまい、ラブホテルで裸にされて天井から吊られ、革のベルトで尻に赤い蚯蚓腫れが出来るまで折檻されたことがある。それ以来、合コンは断り続けていた晴江だったのだ。
 「そのミニスカート、似合うね。可愛いよ。」
 前の彼氏に言われて、いつもミニスカートを穿くようにしていた晴江は、それを命じられなくなった今でも、他に身に着けるものを持っていない。その日も、男を挑発するかなり短めのピンクのワンピースだった。ボディコンなので、座ると更に裾がずり上がり、すぐ横にすわる青年の目に、否が応でも視線を釘付けにしないではおかない。

 途中、トイレに立った晴江だったが、後を、四人の男の中で一番男前だった隣の青年が追ってきた。トイレに入ろうとする晴江を呼び、引き止めた。
 「実は部屋を取ってあるんだ。こっそり抜けてこれから、いかないか。」
 男は小声でそう誘ってきたのだ。
 「ええっ、そんなあ。初めて逢ったばかりなのに・・・。待って。よく考えてくるから、先に戻ってて。」
 曖昧な返事をして女子トイレの個室に飛び込んでいった晴江だった。男の誘いは満更でもなかった。が、個室に入って冷静になって、スカートを持ち上げ、股間に嵌められたままになっている器具を改めてみて溜め息をつく。
 晴江には男の誘いに乗る訳に行かない事情があったのだ。恋人に嵌められたまま逝かれてしまった貞操帯だ。晴江も、自分では外せない鋼鉄の器具に悩んでいた。そんなものを嵌められていることを誰にも知られる訳にはいかないのだった。恋人が亡くなってしまって、外す鍵を手に入れる術を失って、途方に呉れていたのだ。
 いつものように、スカートをすっかりたくし上げると、便座の蓋だけ上げ、便座の上に両脚を乗せて跨ると、Mの字に股を開いて、ゆっくり貞操帯を付けたまま放尿する。滴が貞操帯の裏側を伝って腿を濡らしながらぽたぽたと便器に落ちてゆく。何度しても情けない惨めな姿だった。
 出し終えても、貞操帯の裏側を拭うことが出来ないので、臭いがしないように股間を拭き取るのに苦労する。バッグにコロンを忍ばせて、軽くあてて誤魔化すのが常になっていた。

 晴江はトイレを出ると、こっそり合コンの場を抜け出すことにした。これ以上、迫られて拒みきれるか自信がなかったのだ。席に居る男性陣にも同僚の看護婦仲間にも気づかれないように、そおっとレストランを抜け出ると、出口に向かって一目散に走った晴江だった。

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