指名1

妄想小説

恥辱秘書






第二十章 命令を拒めないキャバ嬢


 一

 芳賀は例の秘密倶楽部とは裏で繋がっていた。元々知り合いだった男が始めた倶楽部で、SMなどのちょっと変わった嗜好をもつ者たちの為の特殊倶楽部だった。そこへ、客の命令は何でも服従するキャバ嬢として裕美を送り込んでいたのだ。裕美の評判は、時々伝わってきていたが、客の満足が密かに口伝で広まって、日増しに愛好客が増えているとのことだった。勿論、店は通常のキャバ嬢と違って、法外な指名料を取っている。それでも、そんな高額指名料を払ってまでも裕美と遊びたいという客は減らないのだった。裕美自身は勿論、指名料は知らされておらず、出向者の身分ということで、秘書をしていた頃のままの給料が支払われているだけなのだった。

 「裕美さん、新しいご指名です。」
 控え室で放心状態だった裕美に黒服が掛けてきた声で裕美は我に返った。ここひと月の間、裕美は特別なキャバ嬢として勤めてきた。特別であるというのは、店のオーナーから勤め始めるにあたって、誓約書を取らされた時に聞かされたからだ。出向元の会社との契約で、その身分が決められていると裕美は聞かされた。
 「お客のどんな要求であっても従うことを誓います。」
 そうはっきり記されていたのだ。
 裕美には他のキャバ嬢と違って、独りだけの個室の控え室が用意されていた。実際に裕美が他のキャバ嬢と接する機会はなく、他のキャバ嬢の場合はどうなのかは裕美は知らない。その店では、客とキャバ嬢の間でどんなことまで許されているのか、裕美には知る機会がないのだ。しかし、誓約書に書かれている内容は絶対だった。しかもそれは元の会社から出向を命じられる際にもはっきり確認されたことで、裕美はそれでも出向命令を受けると誓ってやってきたのだった。
 裕美は事前にお客から何か指定がない限りは、秘書の制服っぽい服装で出ることになっていた。スカート丈は若干短めな程度のものだ。元々本物の秘書であった裕美には当然よく似合った格好である。
 お客の話から、その服装が特殊なのだと思われている様子だった。
 「確かに、ぞくぞくっとする美人秘書って感じだが、それにしては指名料が高いなあ。」
 そう言ってくるお客も実際居た。勿論、指名料が如何ばかりなのかは裕美が知る由もない。
 お客にはさり気なく裕美の身体に触れてくる男も多かった。そんな折に裕美は拒むことは出来ない。素知らぬ振りをすることしか許されていない。そして、もし(触ってもいいかい)などと訊いてこられた場合には(お客様がお望みでしたら)と答えるしかないのだ。この一言がお客の行為を更に大胆にするスイッチになっているのだ。
 お客が何か望みさえすれば、裕美は(お客様がお望みでしたら)としか答えない。それに気づいた客はどんどん増長していってしまうのだった。
 勤め始めて最初のうちは客もそんなに多くなく、お客が求めてくるのも大したものはなかった。しかし、ひと月近くなってきた頃には、お客はどんどん増え始めていた。しかもお客の要求はどんどんエスカレートしていた。特に二度、三度とリピーターになってやってくる客は、遣りたい放題のことを裕美に要求するようになってきたのだ。それがお客の間で密かに交わされていた口伝えによるものとは裕美は思いもしないのだった。
 お客と店との間では、何等かの約束事があるようだったが、それは一切、裕美には知らされていない。裕美のほうからはあくまでもお客が望めば、従うことしか許されていないのだ。それにも関らず、さすがにお客のほうが最初から性行為を求めてくることはなかった。何等かの抑制があって微妙に店と客とキャバ嬢のバランスが成り立っているようなのだった。
 裕美はいつもの清楚な重役秘書の格好で控え室を立ったのだった。

 「お待たせ致しました。裕美がお仕えしに参りました。お呼び戴いてありがとうございます。」
 黒服が扉を開けた時には、裕美は深々と頭を下げていた。だから、頭を上げたときに初めて誰がお客なのかに気づいたのだった。
 「み、美紀さん・・・。さ、沢村さま・・・。」
 二人の顔を見比べて、裕美は血の気が引くのを感じた。久々に見る沢村の顔は、いまわしい過去の出来事を蘇らせた。そして美紀は、今の職場で一番顔を合わせたくない人間だった。
 「貴方、こんなところで働いていたの。派遣をする会社とは聞いていたけど。ふうん、なるほどね。」
 美紀の言い方は裕美の心を深く傷つけた。(こんなところ)という侮蔑的な言い方だけでなく、最後の(ふうん、なるほどね)という言い方は、(貴方にはお似合いの仕事ね)と言っているように聞こえたのだ。
 「裕ちゃん、お久しぶりだねえ。やっぱり秘書の制服はよく似合うね。だけど、僕はやっぱり以前プレゼントしたセクシーな服のほうがいいなあ。」
 裕美はちょっと躊躇ったが、言いたくない台詞を口にした。
 「あの服でお仕えすることをお望みでしょうか。」
 「おお、出来たら是非お願いしたいね。」
 沢村は相好を崩してにやにやしている。
 「畏まりました。すぐに着替えて参ります。」
 裕美は恭しく深いお辞儀をすると、着替えに出ていった。

 裕美は秘書の制服を脱いで、沢村から渡されたバドガール風の超ミニワンピースに身を通しながら、沢村と美紀の間で交わされているであろう自分についての話が想像されてきて、深く溜息を吐いてしまう。しかし、二人が残された密室での会話は、裕美の想像とは別のものだった。沢村役の原洋次にしろ、美紀にしろ、すべて知った上で芳賀の命でやってきているのだった。二人が相談していたのは、どうやって裕美を辱めるかという段取りについてだったのだ。

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