葬儀3

妄想小説

恥辱秘書






第六章 二人の葬儀


 二

 飛行場からレンタカーで、美紀から聞き出した住所へ向かう。車のナビゲーションが映しだした行き先は、かなりの田舎のほうであった。
 芳賀が葬儀が行われている寒村の古い寺に到着した時には、既に告別式は始まっていた。古い田舎のこじんまりした寺で、参列者もほとんどが村の老人ばかりだった。若い世代でこの村に残っている者は居ない様子だった。美紀の夫の和義にも兄弟は居らず、親族は年老いた老夫婦だけとのことだった。
 芳賀はまた、美紀のほうの親類も来ていないことを知っていた。美紀の和義との結婚は、美紀の家族からの猛反対を押し切ってやったもので、それ以来絶交している。おそらく今回のことも美紀は実家のほうには伝えていない筈だった。子供もなく、親から譲り受けるものもない変わりに、老夫婦の面倒を見る訳にも行かない美紀には、これ以上関係を深くする必然性もないのだと芳賀も思っていた。

 途中から始まった焼香の列に芳賀も並ぶ。殆どの者が顔見知りの村の住人ばかりの中で、外からの者といえば、故人の配偶者の美紀と芳賀だけであった。村中の誰もが、芳賀のほうを訝しげに盗み見ていた。それは、最初に和義の遺品とともに村に現れた美紀自身の時も同じであった。美紀自身、結婚する際に一度ここを訪れたことがあるに過ぎず、以来、ここへは来る必然性もなかったのだ。

 焼香台の前に出た時、芳賀は奥にならぶ親族の一番先頭に美紀が黒い紋付の喪服で座っているのを認めた。そのすぐ隣に控えている老夫婦が夫の両親なのだろうと見当をつけた。
 航空会社側からは、日本人スタッフもすくないのか、サングラスをした黒人とその通訳らしい若い営業マン風の男が居るきりだった。

 焼香の際に、軽く会釈をした芳賀のほうに、美紀の俯いた顔が少しだけ一瞥を投げてきた。その目には既に涙は無かった。

 芳賀は、その後の一連の葬儀や、それに引き続いて行われた寺の裏の先祖代々の墓への埋葬にも、少し離れた場所から見ているだけにしておいた。
 遺骨がなく、遺品のみであるため、墓への埋葬も形だけ行われたようだった。それが終ると、会葬者は三々五々それぞれの家へ散っていった。前日の通夜に村としての儀式も一通り終っていたようであった。

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