妄想小説
恥辱秘書
第二十一章 美紀のしくじり
一
「おい、そこまでしなくてもいいじゃないか。もういい加減許してやろうよ。」
そう後ろから優しく声を掛けてきたのは、沢村役の原だった。さすがに、おしっこを舐めさせようという美紀の仕打ちは遣り過ぎだと思ったのだ。
「もう、いいよ。裕ちゃん。充分楽しませて貰ったから。なあ、もういいだろ、美紀。」
突然、原が裕美を許すと言ってきたので、次の言葉を失っていた美紀だった。裕美に原が本当はN社の沢村ではないことを気づかれてしまうのは、拙かった。接待を受ける側の客がいいと言うものを押し留める訳には行かなかったのだ。
「ふん、沢村さまが優しい方で良かったわね。許して貰えて・・・。」
裕美を徹底的に打ちのめすのを途中で止められた美紀は、やるかたない思いを腹に感じながらも矛を納めることにしたのだった。
「いいこと。あんな事、二度と許さないわよ。あんたは自分の立場が判っていないようね。あんたは沢村役をやってるだけで、ただの下請け役者なんだからね。」
帰りの車で、憤怒の持って行き場のない美紀は、原の言葉を主人に対する裏切りかのように憤って叱り付けていたのだった。
原には、どうして美紀がこれほどまでに、元の同僚の裕美を辱め、傷つけようとするのか理解が出来ないでいた。同性に対して、あそこまで酷い仕打ちをしようとする美紀のことが、理解出来ないだけでなく、許せなくもなってきていたのだった。
美紀のほうは、今では自分のほうが立場が上なのだと思いきっていた。自分は裕美が居た元の会社の重役秘書なのだ。裕美はその重役に盾突いた懲罰人事扱いの犯罪者なのだ。だからとことん貶めていけない訳がない、そう思い込んでいたのだった。しかしそれは芳賀が作った虚構の世界の話で、現実ではなかった。それが既に美紀には判らなくなり始めていたのだった。
裕美に対し積年の思いがある訳ではない原には、その分、冷静さがあった。だから、美紀が自分のことを詰ることに理不尽さを感じ始めていた。それがいつしか美紀に対する敵意にまで発展しようとはこの時はまだ気づいていなかった。
裕美への虐めが中途半端に終ったとしか思えない美紀は、芳賀への報告の後、それとなく芳賀も様子を観に行ってみたらとそそのかしてみる。あわよくば、自分も再び連れとして伴わせて貰い、今度こそ心行くまで溜飲を下げたいと下心を持ってのことだった。しかし、芳賀には体よく断られてしまった。それが美紀の不満を更に募らせた。
長谷部の元へお茶を運んだ美紀は、それとなく長谷部にも反応を試してみたくなった。
「専務、私が内村裕美から秘書を代わって二箇月ほどになりますが、如何でしょうか。何か不行き届きのことはありませんでしょうか。」
美紀の口から裕美の名前が突然出て、長谷部は明らかに何かを思って、ぎくっと反応を返したように見えた。
「裕美くんか。彼女は関係会社に出向になったと聞いているが、可哀想にね。」
「可哀想?」
長谷部の反応は美紀には意外なものだった。
「可哀想って、彼女のせいで、専務はとても危ういことになりかけたのですよ。可哀想な訳がないじゃないですか。自業自得ですよ。」
「まあ、そこまで言わなくても・・・。」
「専務は彼女に嵌められたようなものです。今では多少は反省してるみたいですけど。」
「反省してるみたいって・・・。君、彼女のこと、何か知ってるのかね。」
「えっ、まあ・・・。多少は。いろんな伝がありますから・・・。実は、専務。彼女に関しては良くない噂もあるんですよ。」
長谷部は急に興味を示したようで、顔をあげた。
「どんな噂だね。」
「それが・・・。どうも今はキャバクラのようなところで働いているようなのです。出向先の会社とどんな関係があるのか判らないのですけども・・・。そして、それだけじゃなくて、彼女ったら、普通のキャバ嬢がしないようなことまでしてるって噂なんです。お客の言う事ならなんでも聞くって話しです。させ子とか言うらしいんですけどね。」
「信じられないが、本当にそんなことがあるんだろうか。」
長谷部には、嘗て裕美がこの執務室で取った痴態を思い返していた。自分からスカートを捲って、下着を降ろした股間を見せたのだ。
(そういう事もあるかもしれん・・・。)
「あら、専務。何か想像してません?やはり、専務も殿方ですのね。男の方って、させ子とか聞くと、とても興味あるみたいですものね。」
「い、いや・・・。自分の知ってる人間だと思うとね。本当かなと・・・。」
「専務・・・。」
美紀はじっと長谷部の目を射すくめるでもするかのようにじっと見てから、長谷部の顔に近づいて耳元で囁く。
「もし、専務がご希望なら、そのキャバクラ、行ってみられるように手配して差し上げることも出来ますわよ。内密にですけど・・・。」
長谷部は驚いて、穴のあくほど美紀の顔を見つめる。美紀は謎めいたような薄い笑みを浮かべて黙って長谷部の返事を待っていた。
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