葬儀6

妄想小説

恥辱秘書






第六章 二人の葬儀


 三

 もはや訪れるものも居なくなった、美紀の夫の実家へ、芳賀は暫く時間を潰してから出掛けていった。寒村の古い農家で、いまは老夫婦がひっそり暮らすのみで、手入れも行き届いておらず、朽ち果てようとしている古い田舎屋敷だった。

 古くなった忌中と書かれた玄関の堤燈が、故人の家であることを示していた。その玄関をがらりと開け、案内を乞うと奥から喪服のままの美紀が出てきた。愛する夫を亡くして途方に呉れているというよりは、なれない田舎の人間との関わりに疲れ切っているという様子だった。

 芳賀は奥の仏壇の間へ案内された。線香が数本まだ煙をくゆらせていたが、大方の会葬者はもう殆どが済んでしまっていることを示しているようだった。
 芳賀は黙って線香を上げ、会社名の入った香典袋を仏壇の前へ差し出した。

 横の少し下がったところに、美紀は正座して控えていた。
 「この度は、はるばる遠いところ、わざわざ夫和義の為にお越しいただき、恐れ入ります。」
 いかにも形だけというような心のこもっていない挨拶を美紀はして頭を下げた。

 「ご両親は、どうされているのかな。」美紀を試すように芳賀は訊いてみた。
 「あの、・・・昨夜からの葬儀に疲れて、今は離れのほうで床に伏せっております。老夫婦には、連日の葬儀はかなり身体に堪えたようですので。」
 その言葉ににやりとする芳賀だった。
 「そうすると、この屋敷には、お前と私だけということだな。」
 美紀は一瞬、びくっとしたようだったが、蛇に睨まれた蛙のようにそれから身動きが出来なかった。

 芳賀が正座したまま、美紀のほうへにじり寄る。と、素早く芳賀の手が美紀の細い手首を掴んでいた。強い力で、背中に捩じ上げると、美紀は痛さに、芳賀のほうへ倒れこむしかなかった。もう一方の手首も掴んで親指と親指を重ねて片方の手で握って両手の自由を奪うともう片方の手を喪服の裾に伸ばす。
 「あ、何をなさるの。」
 和服を着ていると、自然と言葉も古風になっている。
 芳賀の手は美紀の喪服の裾を手繰って奥へ奥へと伸び、目当ての場所をまさぐりあてる。芳賀の指に冷たい金属片が当たる。あの貞操帯だ。美紀の夫は妻にこれを嵌めさせたまま死んでいったのだ。
 美紀は最早観念し、俯いて為されるがままになっていた。
 「やはり、まだ嵌められたままだったか。葬式の間もずっとこれを嵌めたままだったのか。」
 詰るように言うと、貞操帯の板をぐいっと奥のほうへ押す。
 「あううっ。」強い刺激に、美紀は思わず声を挙げてしまう。

 「今晩はここへ泊めさせてもらうからな。おとぎの準備をして来い。」そう言うと、背中で括っていた手首を離し、前の畳の上で突き飛ばす。美紀は裾を乱したまま、肩から倒れこんでた。

 美紀は芳賀を座敷へ残し、義父、義母の為の夕食を準備し、離れへ届けてから、芳賀の為の料理を準備する。通夜の時に大量に運び込まれた酒もまだ相当量残っていた。美紀は残っていたあり合わせのもので酒の肴を作り、燗をした酒とともに膳に乗せて芳賀の前へ出した。

 芳賀に料理を出している間に、日はすっかり暮れていた。奥深い田舎なので、外には殆ど明かりもない。玄関に点された忌中の堤燈だけが、あたりを照らす唯一の明かりだった。

 幽かな虫の音だけで、弔問に訪ねてくる者も最早居ないようだった。
 芳賀は適当に平らげた膳を脇へ除けると、台所の片付けをしていた美紀にこちらへ来るように命じた。美紀は無言で、芳賀の命令に従う。割烹着を取ると、喪服の身繕いを整えて、芳賀の前へ出る。髪は上げて撫で付けてあり、凛とした美しさが漂う。

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る