悪夢の前夜祭
第二部
四十八
「貴方には、水泳部キャプテンが感じた屈辱を少しでも味わって貰うわ。さ、立ったら言うことがあるでしょ。」
「言うこと? な、何でしょうか・・・。」
「両手が自由でしょ。あの子はどんな格好されられてたっけ?」
「え、縛られるのですか・・・?」
「縛られるのじゃなくて、縛ってくださいでしょ。あの子の思いを知って償いたいんでしょ?」
「え? あ、ああ、そうです。縛ってください。私を恭子みたいに縛ってください。」
「さ、後ろを向いて両手を背中で組むのよ。」
久美子は言われたとおりに朱美に背中を向けて両手を後ろで組む。その手首に縄が巻かれていく。
「ああ、恭子さんもこんな風にされていたのね。」
「さ、校内を暫く散歩して貰うわ。」
「何処へ行くのですか?」
「ふふふ。ついてくればわかるわ。さ、こっちよ。」
久美子はもう頭の中が真っ白でまともに考えることが出来ない。女子生徒に言われて全裸で後ろ手に縛られて学校内を歩かされることを当然のことのように思い始めていた。教え子を救えなかった自分に与えられた罰なのだとさえ思い込んでいたのだ。
「こ、これは・・・。」
菜々子にも見せた演劇部の演目「ジャンヌダルク」をやった際の大道具の処刑台の前を通りかかると、その威容さに久美子は声を挙げる。
「そう。磔の為の処刑台よ。演劇の為の大道具だけれど、結構しっかり作ってあるの。貴方の反省が足りなければあそこに磔にするのだけれど。」
「ああ、それは赦してください。」
「あ、あの・・・。まだ歩くのですか?」
「どうしたの? もう降参? 恭子さんの代わりは出来ないっていうの?」
「い、いえ・・・。あの・・・。おトイレに行かせて貰えませんか?」
蚊の鳴くような小さな声で恥ずかしさに呟くように言う久美子に、朱美と悦子を目を合わせてほくそ笑む。
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