裸土下座

悪夢の前夜祭


 第二部



 三十二

 最後の一枚のショーツも降ろして真っ裸になると床に膝を突く。
 「頭はこう下げて額を床に付けるのよ。」
 悦子が横から全裸の菜々子の頭を小突くように無理やり下げさせる。
 「申し訳ありませんでした。私が間違っていました。どうかお赦しください。」
 しかし朱美からも悦子からも返事はなかった。
 「あ、あの・・・。もうこれで赦していただけますでしょうか。」
 「ふん。もう少しそのままの格好でじっとしていな。悦子、フロントにトマトジュースを二杯、持ってきてくれるように頼んで。」
 「あら、いいわよ。えーっと。1番だったわね。あ、フロントですか。301号室にトマトジュースを二つ届けてくださらない。・・・。あ、じゃ待ってるわ。すぐ届けてくれるって。」
 暫くそのままで居るように言われた菜々子は額を床から離すことも出来ず、屈辱的な姿勢でじっとただ待つだけだった。
 ピン・ポーン。
 「フロントです。トマトジュース、お持ちしました。」
 ドアの外から声が聞こえ菜々子はギクリとする。全裸で土下座姿勢で居るのを見られる訳にはゆかなかった。菜々子がどうしていいか逡巡していると、悦子がさっとドアのところに行って薄めにだけ開いて注文したものを受け取っている様子だった。
 何かがばさりと菜々子の頭の前に落とされた音がした。
 「もう額は床から離していいわよ。ただし土下座はしたままでね。」
 菜々子が頭を少しだけ浮かせると、目の前にさっき脱いだ自分の服が落とされていたのに気づく。服と下着が何故か分けて置いてある。
 「下着は白なのね。純白のブラとパンティか。先生、大人のくせに結構下着はコンサバなのね。」
 そう言ったかと思うと、土下座している菜々子の頭の上から何かが降り注いできた。朱美が悦子に渡されたトマトジュースを菜々子の白の下着の上に降り注いでいるのだった。
 「あ、そんな・・・。」
 グラスの中身を全て空にすると、朱美が悦子にも同じことをするように顎で合図する。見る見る間に真っ白だった下着がトマトジュースで真っ赤に汚されていくのを菜々子はだたみているしかないのだった。
 「赦すかどうかは考えておいてあげる。だから明日の日曜日に東高にもう一度来るのよ。明日は試験前で部活もないから学校は空っぽよ。1時に北側の昇降口で待ってるわ。」
 朱美はそう言うと、トマトジュースで汚された下着を靴でぎゅっと踏みにじって更に汚してから悦子と二人揃ってカラオケルームを出てゆくのだった。

 一人残された菜々子は取り敢えず下着以外を身にまとう。散々汚された下着は廊下の先にあるトイレでこっそり水洗いしてみたが赤く染まった沁みは簡単には落ちなかった。しかもどんなに力を篭めて絞ったところでぐっしょり濡れた下着が乾く筈もなく、それを着て帰るのは諦めざるを得なかった。濡れた下着をバッグに入れてノーパン、ノーブラでフロントに向かうと精算を要求される。女子生徒等は当然のように菜々子に精算を任せて出ていったらしかった。言われた金額を自分の財布から出して支払っていると、フロントが突然思いもしなかった言葉を菜々子に掛けたのだった。
 「替えの下着が必要でしたら、紙製のものがご用意出来ますが。」
 「えっ?」
 突然、背中に水を掛けられたような気持ちだった。
 「私がパンティを穿いてないって言うの?」
 思わず逆上して強い口調で言ってしまう。
 「あ、いえ。先ほどの同室だった女性の方たちが、一応そう訊いてみるようにと仰ったものですから。」
 「え、ああ、ごめんなさい。私、どうかしてたわ。いいえ、必要ないわ。大丈夫です。」
 慌てて平静を装いながらそう言い繕った菜々子だったが、フロントの店員は菜々子の異常なまでの権幕に明らかに怪しんでいる様子で、菜々子の腰回りをそれとなく窺っているように見えた。
 「失礼します。」
 菜々子は差し出すレシートも受け取る余裕もなく、そそくさとカラオケ店を後にしたのだった。

高野恭子顔

  次へ   先頭へ



ページのトップへ戻る