菜々子と美月

悪夢の前夜祭


 第二部



 四十

 「松下先生。あの文化祭の前の晩、私を西高まで呼び出しましたよね。」
 如月美月は生徒会室で松下菜々子を見つけると、近くの空いている教室に連れてきて、詰問するのだった。
 「え、わたしが・・・。いいえ、貴方を呼び出したりはしていないわ。」
 「生徒会長の水野さんがそう言ったんです。大事な話があるからすぐに来てくれって。」
 「何かの間違いじゃない? 私はそんな事、言ってないわ。」
 「本当ですか? それじゃ、水野さんに直接確かめてみます。」
 「だ、駄目よ、それは。彼女今、体調が悪くて学校休んでいるの。暫くはそっとしておいてあげて。」
 慌てて止める菜々子の様子に美月は違和感を覚える。
 (何かあるのだわ。私が直接、水野さんと話しては拙い何かが・・・。)
 「松下先生は、あの晩。文化祭の前の晩ですけど、学校に居らしたのですよね。」
 「ええ、準備とかの様子を見廻っていたので。でも夕方には皆さんを帰るように言って私も学校を出たわ。」
 (夕方に出た? 何か嘘を言ってるみたい・・・。やっぱりあの子たちが言ってたのは本当みたいね。あの二人の弱みを握っているっていうのも嘘じゃなさそう。水野美保がなのか、松下先生がなにかわからないけど。もしかして二人共? 二人でグルになって・・・?)
 「如月先生こそ、水野さんに呼ばれて学校に来たんですか? 何かあったんですか、その時?」
 「いえ、な、何にも・・・。誰にも会えなかったので、そのまま帰りましたけど。」
 「そ、そうなの・・・。なら、いいんだけど。」
 菜々子も美月もお互いを探りながら、自分の事では嘘を吐きあっていたのだがまさかそうとはお互いに気づきもしないのだった。

 「如月先生。郵便物が届いてますよ。」
 事務の女性職員に言われて顔を上げた美月は、事務員が差し出している茶色の封筒を受け取る。
 「あら、何かしら。頼んでいた教材が届いたのかな。」
 そう言いながら只の手紙ではなさそうな、ちょっと嵩張る封筒の封を切って中身を取り出そうと出しかけて慌ててそれを引っ込める。
 (見間違い・・・? ではなさそう。)
 辺りを見回してみる美月だったが、持ってきてくれた事務員はすでに背を向けて遠ざかりつつあったし、周辺の先生も美月の様子に注目している者は居なそうだった。今度は中身を袋から出さずに封筒の口を薄く開けて中身を確かめる。

高野恭子顔

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