悪夢の前夜祭
第二部
三十三
「それじゃ玲子さん、どうしてもテニス部を辞めるって言うの?」
「はいっ。もうテニスを続けていく気力が無くなってしまったんです。」
テニス部顧問の如月美月は、あの翌日早乙女玲子の事が気にかかって、文化祭に現れるかどうかずっとキャンパス内を探し回っていたのだがとうとう最後まで彼女の姿を見つけることが出来ず、心配になって電話したのだった。
「貴方の実力なら、次の全国大会にだってきっと出場可能よ。今、辞めてしまうのはもったいないわ。ねえ、何かあったの?」
スマホで玲子が凌辱される様子はずっと見せられていたので知っていながら、それを伝える訳にゆかない如月美月は何も知らないことを装ったのだ。
「何かって・・・、別に何もありません。ただ気力が無くなっただけです。」
「ねえ、玲子さん。私に何か出来ること、ない?」
「先生に出来ることですって。ある訳ないじゃないですか。これは私個人の問題です。」
「何か相談したいことがあったらいつでも言ってね。力になるわ。」
「先生が私の力になれることは何もないと思います。失礼します。」
玲子への電話は向こうから一方的に切られてしまった。美月も玲子が言うとおり、自分には何の救いも出来ないのだと思い知ったのだった。
ちょうど同じ頃、水泳部顧問の宮崎久美子も、水泳部キャプテンでエース選手の高野恭子に心配で電話をして、彼女から退部の意向を言い渡されていた。恭子も校内放送で生徒会長の水野美保とテニス部キャプテンの早乙女玲子の名前をチラっとは聞いていたが、あの晩は彼女らがどんな目に遭っているかは想像もしていなかったし、それぞれの顧問が自分と同じ目に遭って拘束されたまま教え子が凌辱する姿を見せられていたなどとは思いもしないので、顧問同士で相談するということもなかったのだ。
散々逡巡した結果、菜々子には東高に赴くしかないのだと心を決めた。前の日、自分の下着を汚されて、ノーパン、ノーブラで帰らざるを得なかったのに、何の文句も言えなかったのだ。この日もどんな嫌がらせをされるか分からなかった。それでも菜々子は凌辱を受けた教え子たちの為に立ち向かわざるを得ないのだと考えていた。
日曜日の昼過ぎの東高の校庭は人影もなくひっそりとしていた。校舎前の誰もいない通路を抜けて一番北側にある校舎に昇降口から入る。施錠はされていなかったので、誰かが当直で居るのだろうと見当をつける。昇降口を抜けて廊下に出た菜々子はそこから何処に行けとも言われてなかったので、どうしていいか分からず立ち止まる。その時、階段に続く廊下の角から朱美と悦子が突然現れたのだった。
「桐野さん、下条さん。約束どおり来たわよ。」
菜々子は侮られないようにと、毅然として内心の動揺を隠しながら言い放つ。
「そう。じゃ、服、脱いで。」
「え?」
嫌な予感はしていたが、しょっぱなから服を脱げと言われてさすがに菜々子は戸惑う。
「聞こえなかった? 全部、脱ぐのよ。」
朱美はきっぱりと言い放つ。朱美の方も躊躇しているような様子は微塵もなかった。
「で、でも・・・。ここは学校内よ。こんな所で・・・。」
「今日はアンタがどれだけ従順かを見極める為に来て貰ったの。忘れた? 私達が持ってる証拠をどう使うか、貴方次第だって言ったでしょ。」
「わ、わかったわ。ぬ、脱げばいいのね。」
一度カラオケボックスで二人の前で裸になっている菜々子は覚悟を決める。最後の一枚であるショーツを足首まで降ろして足から抜き取ると、脱いだものを全部悦子に奪われ、代わりに赤い紐が繋がっている革のベルトを渡される。
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