渡り廊下出会い

悪夢の前夜祭


 第二部



 三十

 梅田陽子と別れて東高の生徒会室を出た菜々子は渡り廊下を歩いていて偶然にも二人の姿を見つけたのだった。
 「貴方達、桐野さんと下条さんね。」
 声を掛けられた二人の女子生徒が菜々子の方に向き直る。
 「あら、松下菜々子先生じゃないの。何? こんなところまでやってきて何か嗅ぎまわっているの?」
 「嗅ぎまわっているですって。あんな事しておいてよくそんな事いえるわね。」
 憤りながら語気を強める菜々子に朱美はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
 「先生。何か私達に言いたいことがありそうだけど、こんな場所で話してていいの? 他の生徒達も歩いているわよ。」
 「うっ・・・。」
 (確かにこんな場所で迂闊に水野美保の名前など出す訳にはゆかないのだわ。)
 はたとそう気づいて菜々子は狼狽える。
 「ねえ、松下先生。私達だけと話がしたいんだったら、放課後4時過ぎに駅前のカラオケボックス・あみあみで待ってるわ。そこなら内密の話も出来るから。」
 それだけ言うと、返事も待たずに二人で踵を返すように菜々子の元から立ち去ってしまったのだった。

 (物凄く悪知恵が働くから気をつけたほうがいい)そう言った生徒会顧問の梅田陽子の言葉を菜々子は思い返して嫌な予感に駆られていた。しかし自分が言い出した以上、放っておく訳にもゆかないと思ったのだ。
 西高に戻った菜々子は放課後になったところで、意を決して朱美たちが指定した駅前のカラオケボックス店に一人赴くことにしたのだった。

 菜々子自身はカラオケボックス店には入ったこともなかった。東高の生徒など不良がたむろする場所で、学校で禁止している訳ではないが比較的優等生が多い西高の生徒などは殆ど出入りしない場所だ。そんな店だったので初めてということもあって、入るのに躊躇した菜々子だったが他にアプローチする方法は無いのだと自分に言い聞かせ、思い切って店に入ることにした。
 「あの、すみませんが・・・。」
 フロントらしきデスクカウンターの向こう側に居た男に声を掛けると、顔を上げ菜々子の様子をじろりと見た上で口を開く。
 「もしかして松下菜々子先生ですか? 」
 「えっ? ええ、そうですけど・・・。」
 「三階の301室でお二人の方が先に入って待っておられます。それらしい人が来たら伝えるように頼まれましたので。」
 こともなげにフロントの男がそう言うのを聞いて、菜々子は男が指示したエレベータに乗ったのだった。

高野恭子顔

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