近未来性教育プログラム
九
「おーい、アキホっ。待てよぉ。一緒に帰ろうや。」
前を独りで歩いていくアキホにアキトは声を掛ける。
「アキトか・・・。どうしたの、突然?」
振り返ったアキホは幼馴染の来世(らいせ)アキトが小走りに近づいてくるのに気づいて答える。幼い頃はよく一緒に登校したり帰ったりしたものだが、今はもう殆ど一緒に歩くことはなかった。
「ちょっとお前と久しぶりに話したくってさ。」
「ふうん・・・。」
何故かアキホは俯いてアキトに顔を合わせない。
「あのさ、この間の特別授業のことさ。どう・・・、思った。アキホは?」
「どうって・・・。」
アキホも何と答えていいのか分からずに言葉を濁す。
「俺、あの時のパートナーってアキホだったと思うんだ。違うか?」
「分からないわ。だってずっと目隠ししてたもの・・・。」
「お前。おれが肩を抱いたら俺のペニスに手を伸ばしたろ?」
「あらっ。あれは皆、やってたみたいよ。」
ペニスに手を伸ばしたことはアキホは否定しなかった。
「そうかあ? でも、俺はお前の手だって確信したんだ。」
「え、何故?」
「あっ、何故って・・・。何故かな。」
その時、アキトは甘い懐かしい香りがアキホの髪から漂ってくるのを感じていた。
(この匂い・・・。)
しかし、アキトはわざとそのことには触れないことにした。
「なあ、俺。もう一度試してみたいんだ、あの時の状況・・・。」
「え、あの時の状況? それって、つまり・・・。」
「なあ、明日。放課後、体育館に来てくれないか? 明日は部活が無い日だからさ。誰も居ない筈だから。」
あの時の状況とは特別授業の時のことに違いなかった。そしてそれは昨夜もずっとアキホ自身も頭に描いて離れない気持ちだった。あの時の自分の感情が本当だったのか確かめてみたいと思っていたのだ。
「な、いいだろ。明日・・・。」
「う、うん・・・。」
今度もアキホははっきり否定しない。しかし自分からしたいとは言えないのだった。
「あの時のクラシックな制服、着て来いよ。俺もそうするから。な、約束だぞ。」
そこまで言うと、その後の恥ずかしさを隠せない気がしてアキトはアキホを置いて一人先に走り出してしまったのだった。
後に残されたアキホは、はっきり駄目だと断れなかったことで行くしかないのだと自分に言い訳のように言い聞かせていたのだった。
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