教頭3

近未来性教育プログラム




 二十一

 「ほう、二組が性交まで漕ぎつけたというのだね。初日にしては成果が出たと言えるのではないか?」
 さっそく薫は第二段階の特別実習の結果を校長に報告に参じていた。
 「そう・・・かもしれません。やはり男が女を縛るというのが人間本来の性の意欲を目覚めさせたということなのでしょうか?」
 「まあ、それは国の研究機関が出した結果だから信じるしかないだろうね。この調子で行けば、若いうちに性行為を果たせる人材がどんどん出てきそうじゃないか。日本の将来も明るいというものだ。薫君、よくやった。」
 「いえ、わたしは何も・・・。ただ、指導要録にしたがってカリキュラムをこなしただけです。」
 「ところで、話は違うが・・・。」
 「な、何でしょうか?」

校長室叱られ

 「君自身のことなんだがね。君はもうすぐ30を迎えるよね。」
 「え、そ、それが何か・・・。」
 「確か電子登録情報によれば、君は未だ妊娠経験がないようなのだが・・・。あ、いや、これは校長としての管理責任上、個人情報を閲覧させて貰っただけでね。職務上必要なことだから許可は得ているんだよ。」
 今は国家挙げての少子化対策の必要性から、未婚、既婚に関わらず、女性は30歳までに妊娠経験があるかどうかを登録しなければならないのだ。そして薫は妊娠経験がなかった。
 「前の政権が作った法律だが、徴妊制度のことは知っているよね。現政権はこの法律の改正を目論んでいるようだが、施行開始はもう目前だ。徴妊制度の廃止の法案が通るためには、今回の新世代性教育プログラムの成功が大きなカギを握っている。だが、まだ徴妊制度を廃止しても大丈夫というデータが出揃うには時間が必要だ。」
 「知っています・・・。」
 「どうだね。もし君さえよければなんだが。徴妊制度施行開始前に君が妊娠をしておきたいというのなら、私と君の関係だ。手を貸さんでもないんだが・・・?」
 「校長が私を妊娠させると・・・?」
 「これは君の為に言っているんだ。これは噂でしかないのだが、徴妊制度運用の為には強制注入する冷凍精子がまだまだ足りないので、性犯罪者から強制的に摘出された精子が使われるという話は君も知らない訳ではないだろうが・・・。」
 徴妊制度実施の為に必要となる冷凍精子の不足を前政権は懲役中の性犯罪者から強制的に摘出しているという話は噂というよりも最早公然の事実に近かった。前政権が倒れる元となったスキャンダルで雑誌社が素っ破抜いてネット上にアップしたネタだった。
 「あ、あの・・・。それでしたら、結構です。自分で何とかするつもりですので。」
 そこまで言うと、足早に校長の元を辞した薫だった。
 以前ならこんな会話はセクハラ、パワハラで訴えることが出来るような事案だったが、少子化が進んでからというもの、妊娠経験が無い女性に性行為を申し出ることは国の存亡を救う為の立派な行為だとみなされるようになり、批難出来なくなってしまっているのだった。しかしだからと言って、校長のこの申し出は国の将来を憂えてのものでないのは明らかだった。薫は以前からふとしたことで、校長の視線に何やら疚しい思いが含まれているのを感じずにはいられなかったのだ。徴妊制施行を目前にして、薫に性交渉を迫るのは卑劣なやり口にしか思えない薫だった。

薫

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