教壇女教師2

近未来性教育プログラム




 一

 2040年4月、早乙女薫は総理大臣自らが中心となって政府主導で進めてきている新世代性教育プログラムの特任教師として教壇に立っていた。薫がこれから授業を担当するクラスは、国家最高級エリート養成校で且つ最高学府でもある東京本郷アカデミーの特別選抜クラスだった。東京本郷アカデミーは前身を東京大学、およびその付属高校を母体として出来上がった政府主導の次世代エリート養成校で、その卒業生は将来の日本を牽引してゆくリーダーとなることを約束された若者たちの集団なのだった。その為に早乙女薫に課せられた責任は重い。しかも薫に任された新設特別教育プログラムは、それ以前には全く無かった斬新なものなのだった。
 「えーっ、皆さん。それぞれ自分の名前が書かれた札の付いた席に着いていますね。皆さんには授業に先立って、専用の制服に着替えて貰います。机の上に置かれた袋の名前が自分の物であることを確認した上で、女子はこの教室の後ろ側の教室、男子はこの教室の前側の教室へ行って、それぞれ配られた袋の中にある制服に着替えてきて貰います。着替えが終わったら、この教室へ戻って同じ席に着いてください。それでは移動してください。」
 薫は一気にそこまで言い切ると、一回大きく息を吐いて深呼吸する。
 (本当にこんな事をやってて、日本の将来の役に立つのだろうか・・・。)
 それは薫が新世代性教育プログラムの内容について説明され、その指導を先頭に立って担うよう指名された時からずっと薫が抱いていた率直な感想だった。
 一方の生徒達はぶつぶつ小声で不満そうに自分たちの不安をお互いにぶつけ合いながら男女に分かれてそれぞれ指示された教室へと別れて歩いていく。
 生徒達がそれまで着用していたのは最早強制の制服ではなくなったものの、10年前に先のリベラル政権が全公立学校に制定したユニセックスを前提とした制服だった。男女共、身体の線が出にくいゆとりのある上着にハーフパンツというスタイルで、女子のスカート着用は禁止されていた。また男子のハーフパンツも前にチャック付きの開口部を持たない、女子と同じ作りのズボンになっている。その為、制服だけみると一見して男女の区別を識別することが出来ないようになっている。

旧制服男女

 10年前、長年の保守党である自由民権党から政権を奪ったリベラル党の律新社会党は男女及びLGBT等の性的マイノリティの完全平等を掲げた公約の実施に向けて、様々な革新的な法律を次々に打ち立て社会改革を実施していった。公立高校のユニセックスルックによる制服の男女統一はその一環だった。男女平等は制服だけにとどまらなかった。男女でトイレを別にすることも禁止したのだった。男子トイレから男性用小用便器が全て撤去され、トイレは全部個室になって男女が同じ構造の個室で同じ便器を使うことが義務化された。場所も男女別々に設定することも禁止され、男女が隣同士で個室を使うことが当たり前とされるようになったのだ。そのせいで、男子も立って小用をすることが禁止され、全員が個室の中で便器に座ってするよう強制された。時の政権はこの男子の座位での小用を普及させる目的で、男子の制服のハーフパンツから前部分の開口部を設けることを禁止したのだった。
 法整備当初は戸惑いと反駁の声もあったのだが、学校から男子小用便器が全て取り払われ、トイレに男女の区別が無くなってしまってからはあっと言う間に学校内での違和感は無くなってしまった。

genderless toilet



薫

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